テレビで~と言っていた

仕事

70歳代女性、背中の痛みで来院。10年以上前から背中(上部胸椎)が後方に突出変形してくる円背気味で年に数度ほどしか来院しないのですが、その都度、圧痛のある椎間とそれを支える両側の筋肉(脊柱起立筋)などを中心に鍼灸治療をしていました。

本人は忘れているのでしょうが、来院する度に「猫背を治す体操をテレビで見てやっていたが治らない。どうして治らないのだ」と。

「テレビで~と言っていた」というセリフは患者さんから断トツで聞かされるあるあるなのですが、それは高齢のとりわけ女性がいかに日常的にテレビを見ているか、いかに内容を信じているか、そして情報源のほとんど全てをテレビに依存しているという事実を物語る証拠でもあります。

僕はもう曲がってしまったものは元には戻らない、テレビではたぶん若い人の猫背、姿勢という意味で言っているのだと。

加齢により変形してしまった背中とは違うのだという説明し、少しずつ骨が曲がってきたのでしょうがないのだと答えましたが、「私の何がダメだったのか、医者にも骨粗しょう症の指摘もされていない」と言います。

この問答を半年に一度程繰り返しています。さらに、「テレビで階段昇降がいいと言っていたから踏み台昇降をやっている、テレビでいくつになっても筋力は増えると言っているから歩いて、筋トレもしているがなぜ足の力が落ちるのだ?」

それに対しては「いくら鍛えても年齢とともに筋力も当然低下していくもので、テレビで言っているのは何もやっていなかった人がある日運動や筋トレを始めた場合の話です」と。

「○○さんの場合は以前から適度に使って鍛えているような状況なのでここまで持っているのです」「通常40歳以降は年1%の割合で筋力は低下していくのが自然なのですよ」「だから筋力としても当時の六掛けが普通なんです」と答えました。

テレビで~をすればいいと言っていた、~が体にいいというので買ってみた。彼女らはすべてテレビの言うことは正しく当然自分にも当てはまると解釈してしまうのが特徴です。そして熱しやすく冷めやすく忘れやすいのです。

まったくテレビの制作者の思うつぼのような一見厄介そうに見える患者さんですが、実は健康に対する意識はそれなりに高いので年齢から考えてみても健康度のレベルとしてはかなり良いほうなのです。

ですから、彼女らの解釈を頭から否定するのはあまり意味がない上に、納得させるのも簡単ではありません。独特のパワーで攻めてくるので経験的にこちらもそれを説得しようとも思わなくなりました。

しかも、この患者さんのようなクラスタは理不尽なダメ出しとクレームで、ある意味気力充実の70~80歳代なのですからこの先もまだまだ健康で頼もしい後期高齢者達であることは間違いないのです。

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