自称さっぱりした性格の本質

晴耕雨読

後頚部や肩の凝りと背中の張りで来院している70代女性。自分のことを「私はさっぱりした性格」と公言していますが、しかしそういう人に限って周囲(近所や知り合いの患者さん)から聞こえてくる評価はさっぱり(良くない)なのです。

つまり、本人はいつも言いたいことを遠慮なくはっきり言って「さっぱり」なのですが、毎回言いたいことを言われている相手は「さっぱり」とはいきません。この女性に限らず自己評価とは全くあてにならないものです。

どのような人が自己評価を誤る傾向があるのか。そんな研究があります。大学生に30個のジョークを読ませ、どれほど面白かったかを採点してもらいました。つけられた点数を見れば微妙なユーモアを理解しているかがわかります。このテストでは同時に「あなたのユーモア理解度は同年代の仲間の中で、どれくらいに位置していると思うか」を訊きます。

調査の結果、ユーモアを理解する能力の低い人ほど自己評価の高いことが判りました。下から25%以下の成績の低い人(下位4分の1)は平均して「上位40%くらいに付けている」と自分を過大評価したのです。一方、上位25%(上位4分の1)の優秀な人は「上位30%くらいにいる」とわずかに過小評価しました。

つまり、できない人ほど「自分はできる」と勘違いしている傾向があるのです(ダニング・クルーガー効果)。しかし、これを「こういう人いるよね」と思ってしまう自分も実はこのダニング・クルーガー効果の一種(自分を棚に上げること)で「バイアスの盲点」と呼ばれるものだそうです。

この発見の救いというか重要なポイントは「能力の低い人でも訓練をつめば、それまでのスキル不足に気づき自省できる」という点で、現時点では未熟なだけで成長の余地があるということです。ダニング・クルーガー効果とは初心者に現れやすい自然な心理傾向なのだということを自分自身が理解できれば、「無根拠な自信」は成長のための糧となり得るのかもしれません。

もちろん「自称さっぱり」のうちの患者さんには期待するまでもないのですが、それはそれで完成されたキャラとして僕はリスペクトしています。だって、僕にしても自分のことを棚に上げているのですから・・・。謙虚でいることって簡単なようで難しいものです。

参考:『できない脳ほど自信過剰』 池谷裕二著 朝日新聞出版

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