アルコールはダメです

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アルコールについては少し前に【アルコールはダメですか】で書きましたが、この時はお酒を程よくたしなむ予後良好の前提で書きました。つまり、アルコールを飲むけれどその量が精神的にも肉体的にも悪影響を及ぼさないという大多数の人に対してです。

しかしアルコールの量が増えていったり、常に飲まずにはいられなかったり、多量に飲まないと満足できなかったりという状態になると、これはアルコール依存症ということで介入が必要になります。多くの場合は暴力や暴言などで人間関係に支障を来たします。

現在日本では約80~100万人がアルコール依存症だと推測されていますが、治療を受けているのはわずか4万人程度です。つまり症状としても相当ひどい人しか治療していないということになります。

これは殆どの依存症と診断されるべき人が、放置、無自覚、無診療ということでもあります。つまり重症患者への断酒だけでなく、軽症患者への節酒も治療選択肢になるということです。例えば1日4合を2合に減酒することで人口1万人当たりの年間死亡率が124人から36人へ減少することが算出されています。

しかし、日常生活に支障の出る重症の依存症の場合は断酒しかありません。こういうタイプの人は一滴でも飲んでしまうと元の木阿弥なのです。アルコール依存症にかかった人の平均寿命は52歳とかなり短く、典型的な最期は食道静脈瘤の破裂(これは肝硬変ということでしょう)、交通事故、自殺、転倒なのだそうです。

鍼灸治療の現場ではアルコール依存症の患者さんには遭遇したことはありません。そもそもそういう人は自分が依存症だということを認めたがらず隠しますし、予防医学的、東洋医学的な考え方とかなり距離のある立ち位置にいるのかもしれません。

唯一経験しているのは70歳代女性患者さんの息子さんがアルコール依存症だったのだろうということです。この患者さんは元々活動的な人で60歳代の頃は腰痛などで来院していたのですが何年か後に久々に来院した時は御主人が押す車椅子に乗り、話す言葉もはっきりしていませんでした。指定難病の大脳皮質基底核の病気でした。

介護している御主人は言いませんでしたが、この患者さんの話やケアマネジャーと話をした時に息子さんの問題も家族の負担になっていると聞かされました。40歳代の男性でしたが自営業に失敗し実家に戻り引きこもり酒を飲んでは親に暴言を吐き、しかし当然経済的には親に依存するという状態のようでした。

結局、程なく御主人は奥さんと息子さんの間で立ち行かなくなり奥さんは介護施設に入所することになり僕の治療は終わりました。残念ながらそれから一年半ほどで亡くなってしまったのですが、不幸なことに息子さんはアルコール依存症が改善することなくそれよりも早く亡くなってしまっていたようでした。

2013年に断酒補助薬アカンプロサート(レグテクト®)が登場し6か月後の完全断酒率が47.2%(プラセボ36%)になりましたが、それでも離脱症状や副作用が辛く、このことからも基本は薬ではなくて心理社会的治療(精神療法、認知行動療法、作業スポーツ療法、自助グループへの参加など)だということが理解できます。

しかし、うつ病があると退院後の断酒率も低くなり(つまり、アルコールは処方箋なしで手に入る手軽なそれゆえ危険な抗うつ薬とも考えられます)睡眠薬とアルコールをあわせて使ってしまう依存症患者も多いといいます。

「うつ病や不安障害などの背景にアルコール問題が潜むことも多く、少なくとも飲酒量を減らさなければ併存疾患の治療効果が得られず遷延化する可能性がある」と樋口進氏(国立病院機構久里浜医療センター院長)は述べています。

アルコールで家族が苦しんでいる、本人がやめられない、あの飲み方はフツーじゃないという場合は当事者では解決不可能です。なるべく早く、身体が、家族が壊れてしまう前にアルコール依存症の専門医療機関、公的機関の相談窓口、自助グループ、その他のサポート団体へ問い合わせてもらいたいと思います。

専門用語では「底つき」と「気づき」というそうですが、これ以上最低最悪の自分はない、というふうに底をつき、「酒をやめなきゃ」と本人に気づかせることがアルコール依存症の治療の第一歩だそうです。飲む気になれば24時間、近所のコンビニで100円で手軽に買えてしまうのですから。

アルコール依存症は自堕落な人がなるのではなく病気であり精神科の専門です。絶望感であきらめる前に専門の窓口に相談していただきたいと思います。この辺の東京東部の方なら都立精神保健福祉センターでもいいしょう。江戸川区の健康サポートセンターでは月2回アルコール・酒害相談も実施しています。引きこもりがあるなら健康サービス課でも大丈夫でしょう。

参考 メディカル・トリビューン 「日本のアルコール医療の見直しを」①、②
   『おサケについてのまじめな話』 西原理恵子、月野光司著 小学館
   江戸川区ホームページ

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