松本俊彦医師の依存症や薬物中毒に関する出版物をよく読ませてもらいます。その中で依存症専門病院「ダルク」の入寮者の話に興味深いものがありました。
危険ドラッグを使っていた者のその後は大別して3パターンあるらしいのです。
第一は使う薬物を大麻や覚せい剤など違法薬物に変更するタイプ。元々違法薬物を使っていたものの逮捕は嫌で薬物を探し求めて危険ドラッグにたどり着いた人たちがこのパタン。
第二はいっさいの薬物をやめて通常の社会生活を取り戻していくタイプ。これは危険ドラッグ以外の他の薬物経験がない人たちで、人間関係が破綻したり、仕事を失ったりすることがなく、戻るべき「居場所」がある人がこのパタン。
『 そして最後が危険ドラッグの代わりとしてアルコールにはまるタイプだ。実は最初の違法薬物に戻ったタイプの中にもしばらくするとやはり逮捕が怖くなって、アルコールへと依存対象を変更するものがけっこういたらしい。といっても薬物使用者の中にはそもそもアルコールに弱いだけでなく、アルコール飲料の味そのものが苦手という人も少なくない。そういった人たちが好んで選択するのが、「ストロング系」と呼ばれるジュースのような飲み口の高濃度アルコール飲料なのだという。
「実は、俺がこの最後のタイプなんです」
(略)
「ストロング系はマジやばいです。飲みやすいからガンガン飲んでしまって、気づくと意識がぶっ飛んでいる。お酒を楽しむとか、酔いを楽しむとかじゃなく、ぶっ飛ぶため、何も考えないようにするために飲んでました。あれは完全に次世代の危険ドラッグですよ。自分でもわからないうちに暴れて、親とか友達をぶっ飛ばしちゃって。それでいまダルクにいるわけです」 』
『障害と殺人事件の4~6割、強姦事件の3~7割、ドメスティックバイオレンス事件の4~8割にアルコールによる酩酊が関与しているという。これに飲酒運転による交通事故被害を加えたら、アルコールによる社会的弊害の深刻さは驚くべき水準に達するはずだ。
自殺への影響も無視できない。救急救命搬送された自殺未遂者の四割は体内からアルコールが検出され、また、自殺遺体の三割強からアルコールが検出されるという報告がある。
(略)
こうしたアルコールと自殺との関係については国内のアルコール消費量と自殺死亡率との経年変化の相関を調べる研究からも証明されている
アルコール消費量と自殺死亡率とのあいだの相関係数は、蒸留酒を好む国で高く、醸造酒を好む国では低い。つまりアルコール濃度と社会的弊害との間には正の相関関係があるのだ 』
この本を含め著者の依存症関連の著書を読んで思うのはアルコール=薬物そのものであり(ダルクの職員と入寮者もアルコールも薬物の一種との考えから断酒しています)、アルコールに引きつけられるということの根底にはアルコールを求めてしまう精神的ストレスが大なり小なり存在するのだと感じます。
もちろん、仕事を頑張った後のビールを否定するわけではありませんが、そこにはやはり少なからずストレスがかかって幾ばくかの無理をした代償としてのアルコールがあるのです。気持ちを緩める食事時の一杯のワインやオヤジの晩酌などが最も理解しやすいところです。
その程度ならフツーの日常なのですが、それが続いて当たり前のように毎日飲むのがルーティンになり、そうなるとちょっとしたストレスなどでまた量が増えていき、依存性が出てきてやめられなくなり結果的に精神的、肉体的悪影響が増していきます。
以前、雑誌PRESIDENTの「後悔していること」という読者アンケートがあり、「酒を覚えなければよかった」というのがベスト10に入っていました。多くのビジネスマンが、累計で莫大になる出費、時間の使い方(もったいなかったということ)、健康への影響という面でやはり後悔しているのです。
私も誠に遅まきながら58歳の時にお酒をやめました。
参照:「誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論」松本俊彦 みすず書房
コメント