治療中に「認知症だけにはなりたくない」と女性患者さんが訴えることがよくあります。
女性だけが言うのはもともと不安や神経症には性差があること、男性より寿命が長いので取替えや治療がほぼ不可能な脳神経細胞の経年劣化を恐れていること、そして自分が自分でなくなることへの恐怖があるのだと考えます。
そんななか2024年、医学雑誌ランセットが「認知症を最大45%予防したり発症を遅らせることができる14のポイント」という報告書を出しました。最大で45%ですからそれでも55%はコントロールできないということですが。
最新研究をまとめ科学的根拠に基づいたリスクを提示しているので参考になると思います。
まず若年期、18歳以下の時のリスクで言うと「教育機会の不足」(45%中5%、以下同様)が挙げられています。
海外のデータでは読み書きができないと認知症のリスクになるというデータがあるそうで、つまり若年時に脳を鍛えることは神経ネットワークの強化になるということです。
成年期の18~65歳においてリスクの割合としては合計30%なのですが、その中でウェイトの大きい二つが「難聴」と「高コレステロール」です(各7%ずつ)。
この時期の難聴は高齢において気分の落ち込みや社会的孤立を招きやすいというのがその理由です。騒音現場での無防備での仕事やヘッドホン難聴に注意です。
高コレステロールは認知症の原因物質と言われるアミロイドβが蓄積しやすいと言われています。
またその先にある動脈硬化は神経細胞にダメージを与え、イギリスでは40mg上がると8%のリスク上昇というデータです。
次が「うつ病」と「頭部外傷」(各3%)です。これはどちらも脳の機能に影響するということでしょう。
「運動不足」「糖尿病」「喫煙」「高血圧」が各2%です。「肥満」「過度の飲酒」が各1%で計30%です。
こうやって見てみると、65歳までの認知症リスク因子は認知症、脳神経のみならず体全体においてもごく普通の健康への意識と同様だということがわかります。
65歳以上の高齢期(10%)においては「社会的孤立」が5%です。退職後、家族に先立たれるなど孤立、孤独が脳への刺激が低下するということでしょう。
孤立が具体的にどういう状態かにもよりますが、元々一人でいた方や一人でいることが全く苦じゃないという方はもちろんこの限りではないでしょう。
しかし双方向の意思疎通という刺激はある程度必要になることだと考えます。
「大気汚染」が3%、これはアミロイドβの蓄積につながるという報告があります、「視力障害」が2%で合計45%になります。
こうやって列挙されても全て目新しくもない健康の基本だなという気がしないではありません。
結局重要になってくるのはブラックボックスともいえる認知症リスクの残りの55%にいかに働きかけることができるのかということになります。
しかしこの残りの55%の大半は「加齢」ではないかと考えているのですが、これは考えてもどうしようもありません。
だとすれば、上記の45%をクリアしてなおかつ普段の生活において自分でコントロールできることは何だろう、ということです。
それは睡眠、食事などに気を使い、かといって細かく気にしすぎず心穏やかに楽しく感謝して毎日を過ごすという至極当たり前の結論になってしまうのです。
そこまでしたらあとは「気合」です。
必ずどこかの臓器、器官に取り替えのきかない寿命は来ます。それまでの日々を楽しみ充実させるしかないのです。
そして、それまでの日のなかに今日も含まれているのです。



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