「痛みに抗うつ薬」について

医療トピックス

「痛みに抗うつ薬の処方が可能に」という記事がメディカルトリビューンに出ていたのは4年ほど前のことでした。とは言っても実際には対処に難渋する強い痛み(≒うつ症状)への処方としてはずっと以前から使用されていましたが。

SNRI(セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)のデュロキセチン(サインバルタ®)が臨床導入されました。その後、NaSSA(ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン作動性抗うつ薬)のミルタザピン(リフレックス®)が線維筋痛症への適応を目指して臨床試験をしていましたがダメだったようです。

デュロキセチンの適応は2012年に糖尿病性神経障害に伴う疼痛、2015年に線維筋痛症に伴う疼痛でしたが2016年3月慢性腰痛症に伴う疼痛、12月には変形性関節症に伴う疼痛と適応が追加され、このプレガバリン的な適応の増え方で患者の訴えの対応に苦慮している医者の処方が結構な数で増えました。

高容量デュロキセチンががん切除術後の化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)に著効したとの報告も出ています(日本ペインクリニック学会誌Vol,23.No1.2016)が、より一般的で他にいろいろな選択肢がある腰痛症、変形性関節症でこの薬はどうなのでしょうか。

線維筋痛症患者でのデータを見てみると14週386例でプラセボとの差が-0.32(デュロキセチン-1.90とプラセボ-1.58)、慢性腰痛症に伴う疼痛患者を対象にした比較試験結果(Spine誌)によるとベースライン時から14週でデュロキセチン-2.43、プラセボ-1.96です。

これは平均BRI(Brief Pain Inventory)という疼痛重症度の指標で、痛みの程度やそれによって障害される気分や行動について0~10で評価するものです(痛みは主観的なものなので評価が難しいのですが数値で表された痛みの程度が下がれば効いていると判断できます)。

2016年の世界疼痛学会でも国内Ⅲ相試験で腰部以外疼痛を持つ351例の平均BRIが-2.51、プラセボ-1.95で有意な低下が認められていると。

でも、これを見て僕が率直に思うのは、「プラセボ(偽薬)効いているなあ、サインバルタも効いているけど」という事です。評価の差が0.56。これがプラセボじゃなくて鍼灸治療との比較データなら副作用のない鍼灸治療も健闘しているという評価を出すでしょう。

でもこれはプラセボのパフォーマンスです。痛くて苦しんでいる線維筋痛症や慢性腰痛症の患者さんをランダムに半分ずつ振り分けてお薬(本物=原薬+添加物)と偽薬(添加物だけ)を渡された3か月後の結果がたったこれだけの違いなのです。

「新しいお薬を試している(のかも)」という状態で対象群の評価もSNRIに迫るパフォーマンス。心の持ちようがどれだけ体の具合、精神状態に影響するのかという分かりやすい証拠になっていると思います。

抗うつ薬の治験が期せずして疼痛患者の気持ちのあり方にそして、期待が疼痛の感覚そのものに大きく影響を受けるのだという事を示唆したことは非常に興味深いと思います。

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