強い痛みへの抗うつ薬からの脱出

抗うつ薬(SNRI)のサインバルタ®(一般名デュロキセチン)が2012年に慢性腰痛症にも保険適用となり対応に苦慮していた医者により腰部慢性疼痛の患者さんなどに処方されだしました(僕は2015年4月の腰下肢痛の患者さんが最初でした)。

リリカ®(プレガバリン)、トラムセット®(トラマドール+アセトアミノフェン)の時もそうでしたが、明らかに医師も手を焼いているであろうと想像される患者さんからの依頼があると僕のモチベーションも上がります。なぜならこういう代わりの利かないニッチな領域で成果を出してこそ存在価値があるからです。

この手の高齢の患者さんは慢性的かつ強い痛みを訴えるため選択肢が少ない医師としては、多くの場合長期に渡ってこの手の疼痛補助薬を処方します。整形外科での処方としてはしようがないとはいえ、それでは先に楽しみがないではないかと個人的には思っています。

抗うつ薬を用いる機会の少ない医師による有害事象の多さについてもドイツの医師らの2017年の論文を用いて北里大学東病院院長、精神科の富岡等教授が警鐘を鳴らしています。(「デュロキセチンによる疼痛治療は副作用に注意!」メディカルトリビューン2017,11,27)

腰や下肢の痛みは多くの場合で腰部にトラブル(震源地)があり、それを脳は痛みを感じることでトラブルを知らせてくれているのですが現代医学では簡便な対処法が無い為にそこを放置して、痛みを感じる脳に蓋をするのですから副作用は容易に想像できます。

それは急性的な症状の時間稼ぎとしては有効かもしれませんが慢性症状において服薬だけで何もしなければ(できなければ)自然に治癒する確率は限りなく低いと考えます。

そういう働きから考えると個人的には鍼灸治療が先(もしくは同時進行)で効果が出せなかったらトラムセットの流れなのですが、現代医学的には何しろエビデンスなので、痛みのレベルや、施術者のレベルによって効果に違いが出る鍼灸治療は積極的に推奨されることはありません。

そのため圧倒的に多くの場合は鍼灸治療→リリカ、トラムセットではなくてリリカ、トラムセット→しょうがないから鍼灸治療の流れになってしまいます。

もともと太めの80代女性。2年前心臓の不調でカテーテル手術、その後すぐご主人が亡くなった精神的負担、忙しさから腰痛以上に下肢痛が増悪し来院できなくなって1年半以上経って連絡がありました。訪問してお薬手帳を見せてもらうと整形領域では脊柱管狭窄症、下肢血行障害の対策プロレナール®(リマプロスト)、疼痛対策のカロナール®(アセトアミノフェン)、その後リリカ、サインバルタの流れでした。

本人はとにかく右下肢(特に膝から上の大腿外側)が痛いと。湿布もすねの辺りまでびっしりです(服用後心臓の不調の増悪で副作用が予想されたリリカは中止されていました)。

一人暮らしになり、歩行もままならないためヘルパーさんが入って掃除から買い物までやってもらっていましたがこのままでは安静による筋肉の廃用性萎縮で身体全体の機能が低下していきます。動物は動かないとだめなのです。

これは手間(回数)がかかるし自費による出張治療では負担が大きいので国民健康保険による治療を提案しました(出張治療は歩行困難なら認められます)。2年前に冠動脈にステントを入れて以来定期的に通っていて、悪化する坐骨神経痛に苦慮していることを知っている循環器専門病院の院長が同意書を書いてくれました。

しかし、その時「ワーファリン(抗凝固薬)を使っているので鍼はあまり勧めない」と言われたとの事。つまり鍼治療で出血すると思っているのです。

医師の鍼灸治療に対する基礎知識の低さに唖然としましたが、逆に言うと彼らの一般的な鍼灸および鍼灸師の質に対するイメージを示唆しているとも言えなくもありません。私たちの努力不足でもあります。

ともあれ、そこから週2回の出張治療です。当初は右下肢が痛くて伸ばせない為に腹臥位(うつ伏せ)もできませんでしたが徐々にできるようになり1か月後にはサインバルタが要らなくなりました。これで日中の眠気が無くなりました。2か月後には整形から処方されている薬は要らなくなり通院が一つ減りました。

寒さや、天気(気圧の変動)、体調などのせいで調子の悪い時もありますが何しろ「素面」なので腰の状態の良しあしが本人も判ることが重要なのです。

ヘルパーさんに買い物のすべてを依存していましたが家のすぐ前のコンビニを冷蔵庫だと思って重いもの以外は散歩ついでに自分で調達するように指示しました。しかし、彼女のスイーツ好きがあれ程だったとは考えが及ばず散歩の意味が・・・という誤算はありましたが。

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