童謡の効果恐るべし

仕事

今、童謡って歌われているのでしょうか。この年齢でフツーの生活をしていると流行りの歌もわかりませんが童謡なども聞く機会もありません(童謡というより文部省唱歌と言うほうが正確でしょうか)。

しかし、介護の現場となると童謡はかなりの重要なアイテムではないかと思います。そして医療の現場においても特に訪問治療の現場では、患者さんによってはとても重要でかつ効果的なツールなのです。

現在は自由に出入りできないのですが以前、来院していた患者さんが自宅での一人の生活ができなくなりグループホーム(認知症患者の共同生活施設)に入居し家族から引き続き治療をしてほしいと言われ通っていたことがあります。

そこのフロアのロビーで各自歌の本を広げては皆で歌を唄っていました。もちろんウトウトしている人もいるし声が出ない人もいるのですが、そこそこの入居者はちゃんと唄えるのです。

今では記憶のメモ帳は全く余白が残っていないのですが、真新しい若い頃に書き込まれたものは記憶としてずっと残ります。その彼女たちの共通のメモが童謡だったり懐メロだったりするのです。

以前、ディック・ミネの「人生の並木道」の話を書きましたが(【 I have a dream #1】2023年10月1日UP)、歌が人生に寄り添っていて歌が思い出を連れてくるのです。通院患者さんの場合は認知機能は正常なので懐メロ(歌謡曲)の方が琴線に触れやすい傾向があります。

現在、認知症の患者さんの訪問治療もしていますが主訴は腰痛だったり、神経痛だったりするのですがやはり感情の起伏が大きく、調子の悪い時はとても不機嫌です。

そこで童謡なのです。人によっては懐メロということもありますが童謡はそれ以上に奥が深いのです。記憶のもっと深いところを刺激するのかもしれません。ですからもちろん認知症の有無にかかわらず歌、音楽というのは重要なのです。

機嫌の悪かった患者さんも皆ではありませんがみるみる明るい表情になり一緒に歌ってくれます。そして治療も受け入れてくれたりします。もちろん全くダメな患者さんも、ダメな日もありますが。

「ペチカ」「里の秋」「この道」「からたちの花」などいろいろ探りを入れつつ穏やかな気持ちになるよう誘導します。今この季節の押しは「夏は来ぬ」。

佐佐木信綱の趣深い歌詞と不朽のメロディ、先日も車椅子の86歳の女性患者さんと二人で歌いつつ膝の関節症や肩関節周囲炎の治療をしました。

そして二人で歌い切った後で彼女は満面の笑みで乙女の瞳で見つめつつ両手で僕の手を取って「やっぱり私、コースケ君のお嫁さんになるわ」と言うのです。

僕はコースケ君のようなのですが、きっと6~70年前の誰かなのかもしれません。部屋の端には5年ほど前に亡くなった優しいご主人の遺影が微笑んでいます。

考えてみれば脳や精神に作用する薬も使わず、アルコールなども飲まずに安全でコストゼロ。こんないいものはありません。

感情の抑揚のほとんどなくなってしまった、もしくは認知機能の低下した不機嫌、抑うつ状態の患者さんへの精神的刺激の一つとして童謡で忘れられていた昔の記憶を喚起させることはとても重要かつ有効であると思います。

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