膝の手術と痛み止め その2

膝関節全置換術の手術となった患者さんも最近は低侵襲の為3週間で戻ってきて(最短の傷の長さは16センチでした)、術後もかなり活動的な患者さんも増え手術の技術の進歩を感じます。

とりわけUKA(単顆人工膝関節置換術)は、O脚変形の進んだ膝(内側の軟骨を中心に損傷している変形~ほとんどの患者さんはこのタイプ)で行われ傷も小さく(6~7cm)何しろ前十字靭帯など膝関節機能に必要な靭帯をすべて温存できるのが大きく、痛みを除去して歩けることに重きを置いてきたTKA(全人工膝関節置換術)よりも患者さんの満足度は高いと言えます。

UKAに関してはより高度な手術技術を要するため、まだできる施設も限られていて僕もまだお目にかかっていません(そもそも術後に愁訴がないと鍼灸院には来ませんし)。耐久性の面でTKAよりも劣るので手術年齢も考慮されているのだと思います。

他にも技術進歩はすさまじく3Dプリンターガイド、ナビゲート使用のTKA、靭帯温存のTKAなど新しい技術が次々出てきて変形性膝関節症に悩む方々にとってはいざとなったら、という安心感にもつながっていると思います。

しかし、やはりそこまで症状を進行させないために留意することは(痛み止めの多用も含めて)痛みを無視しないことです。痛みが出るという事は身体が不具合を持ち主に教えてくれているということに他なりません。

7年ほど前、その2年前から自分の膝関節の痛みを我慢して重篤なご主人の看病(病院通い)でNSAIDsと痛み止めの注射を打って頑張っているうちに急激にO脚変形してしまい、ご主人が亡くなられた後にどうにかならないかと出張治療を依頼された室内歩行がやっとの患者さんがいました。

ご主人思いの寡黙で真面目な方で「毎週クリニックに通っていたのに・・・」と本人は膝を治すために通っているつもりが医者の方は痛みを止めることのみの対処だったようです。ステロイド注射のシャルコー関節も疑いましたが。もう既にどうしようもありません。

これは一見してグレード4の膝でした。一応姑息的に鍼灸治療で対応しつつ手術の手配を勧めました。リハを含めて42日後に戻ってきましたが、退院5日後にまた治療の依頼がありました。

あまりにO脚変形がひどかったため両足関節(足首)も代償性に足関節症を発症していて、膝は真っ直ぐになりましたが今度は変形性足関節症に苦しまれた気の毒な症例でした。

避けられない大変な事情がありましたが、やはり痛みの問題の根本を先送りしての予後は厳しいと言わざるを得ません。

以前にも製薬会社の治験の参加を募るチラシが新聞に入っていました。江戸川区を含む5区4市で膝、股関節の変形性関節症の新しい痛み止めの有効性(効果)と安全性(副作用)を調べるのが目的です。「ほぼ毎日鎮痛剤を服用している方」が参加条件ですからすでに相当な方々が対象です。

「痛みを忘れていつまでも歩んでいきたい」と裏面の見出しにあります。確かに痛み止めはその当座は忘れることが出来ます。が、当然のことですが「いつまでも」とはいきません。ビスフォスフォネート製剤の進化のように服用の煩わしさもなく、また副作用もより少ない薬なのかもしれませんが。

しかし、本来あるべき関節の痛みをただ止めた場合の、その先にある予後もお医者さんは同時に十分説明していただきたいと思います。つまり、その先には不可逆的な関節の変形→(手術可能であれば)人工関節置換術が結果的に早まるし、それを避けられなくなる可能性が高くなるということを理解してもらいたいと思います。

以前にも書きましたがミオガバリン(タリージェ®)やトラマドール+アセトアミノフェン(トラムセット®配合錠)に私もかなり助けてもらっていますので薬の存在は大変有り難いのですが、先に挙げた患者さんの様な予想外の結果を招かないためにも、親身になって対応してくれるお医者さんと治療見通しを共有しながら治療することをお勧めします。

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