焼けあとのちかい~東京大空襲

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一昨年亡くなった作家で評論家の半藤一利の話が出た時に、在宅の患者さんが僕に「昭和20年の東京大空襲(3月10日未明)のあの時、半藤さんと同じ中川の中に私もいたのよ」と教えてくれました。中川とは江戸川区、墨田区、江東区を分ける現在は旧中川のことです。

そこで、2019年出版された、その時の経験が描かれた半藤一利唯一の絵本『焼けあとのちかい』塚本やすし/絵 大月書店 を知っていたので図書館で借りて出張治療のついでに持っていってあげました。

それを読んだ彼女はコーフンして、その気持ちを伝えるべく、その当時一緒に助かった、現在は木更津の施設に入っている従妹に電話をしたそうです。

その従妹はあの空襲で自分以外の家族5人を亡くし天涯孤独になってしまったそうです。

彼女とは、川の中まで死体だらけ、そしていきなり一人ぼっちになってしまったというあまりにショッキングな出来事で以来一度もお互いその時のことを話すことは無かったそうです。

しかし、この絵本を見たことをきっかけにそのつかえが外れたのか、もういいと思えたのか「あの時は大変だったわよねえ」とお互い時間を忘れしみじみ話をしたそうです。

79年前、当時の若者、子供はみなひどい時代を経験して今ここにいるのです。両親、姉弟を一晩で失った従妹もやっと今、心の中にふたをして閉じ込めていた若い日の深い悲しみを人生の終わり近くに絵本で記憶の甦ったいとこのお姉さんの電話でやっと解き放って総括できたのかもしれません。

当時半藤少年は14歳、患者さんと従妹は18歳と17歳。川の中で危うく死にかけた少年は多くの評論を残し90歳まで生き、爆風で川に落ちた乙女二人は今は97歳と96歳です。

半藤一利は亡くなる日に夏目漱石の孫である妻に「日本人はそんなに悪くないんだよ」と言ったそうです。

参考:NHK NEWSWEB 

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