手で水がすくえない

鍼灸治療

80歳男性。元々健康意識の高い人で、自身の筋力低下に対する不安症的なまでの恐怖が逆効果になり、過度な負荷をかけて自己流のトレーニングをした挙句に膝関節を傷めたり、肩関節やその周囲の筋肉を傷めては治療に来る患者さんです。

逆に云うと、この歳までそれが可能な血管や内臓(循環器、呼吸器)であると言うこともできるのですが。

久々に来院し、今度は何かと思ったら左手の小指がおかしいとの事でした。どのようにおかしいのか尋ねたところ、三ヶ月くらい前から顔を洗う時に小指だけが離れてしまい水がこぼれて上手く洗えないらしいのです。

その他にもポケットに手を入れようとしても小指だけが外に出て引っ掛かってしまうと訴えます。痺れはありません。

頚部や頚椎には以前から問題なかったのですが、今回も圧痛や頚椎症の特徴はありません。ということで原因は肘にあるのではないかと考えカルテをよく見ると、やはり「屈曲120°」との以前の記入がありました。

つまり肘が思うように曲げられないので指先が肩につけられない状態です。以前に左肘の不調を訴えていたのです。

ここで考えられるのは一般的には「肘部管症候群」というもので、勢いよく振り返って肘をぶつけた時などに小指が痺れるアレと基本的な機序は同じです。

薬指小指の運動、感覚を管轄している尺骨神経が肘の骨の辺りで微妙な骨の変形など何らかの障害を受けて指がしびれたり動きが制限されたりするのです。

この患者さんの場合はダンベルによる過度な負荷によって徐々に発症し、自覚症状として気付くまで時間がかかっているので鍼灸治療での改善は厳しいかもしれないと伝えました。

以前からあった骨棘や軟骨の変化が進んで神経を圧迫して指先の麻痺として出てきているのだと思います。

麻痺が進んで筋肉の萎縮が進めば肘の圧迫している部分を手術して腱を広げたり筋肉を切開して神経を少しずらしたりすることもありますが、この患者さんは握力も残っていることからQOLにもあまり影響がないということで現状を受容して鍼灸治療で様子見ということになりました。

肘部管症候群の症状だけで鍼灸治療に来る患者さんは、この疾患自体がそんなに多くないので珍しいのですが、何かの主訴のついでに肘の症状を訴えられるということは多々あります。

調子の悪い時だけ肘がコキコキ不安定になる、痛いとか、いっぱいに腕を伸ばすと肘に痛みが出るなどそういった地味な肘関節の不調です。こういった関節の不具合にも局所の軟部組織への鍼や継続的な直接灸がよく効くことがあります。

しかし基本は痛みが出ないような肘の使い方を心掛けることに尽きます。

また、この患者さんの様に自己判断による強い負荷をかけた運動は筋トレのつもりがかえって筋組織を損傷したり、腱に炎症が起こったり、関節を傷めることになりかねません。

特に50歳を過ぎたら弱い負荷で数を増やすという方向性が正解で無理をしない運動計画をたてていただきたいと思います。

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