体外受精児の予後リスク

医療トピック

国内の2019年の全出産数における体外受精による出産数の割合が14人に1人(6万598人)という数にまで増えたとの報告がありました。

2012年は27人に1人、2015年は20人に1人、2017年は16人に1人、2018年は15人に1人なのでかなりのペースです。累計では70万人を超えました。

出生数はどんどん減っているのに対して、体外受精による出産は増えているのでこういうことになるのですが、治療件数も飛躍的に伸びているため、治療件数に対する出産率は単純計算で12%程度しかありません。

母体年齢によって大きく違いが出ています。(2015年産婦人科学会統計より)

14人に1人というと学校で1クラスに3人は体外受精によって生まれた子供が存在するという時代になりました。

ウチの患者さんでも複数の方がこの選択で出産をしています。一人は鍼灸治療をしながら、もう一人は妊活の力にはなれずしばらく来院していなかったのですが出産後の体調不良で来院して知りました。

妊活初期の患者さんも勘違いされている方が多いのですが、人工授精は予め採取して精子を選別して直接子宮内に入れるという方法なので、自然妊娠と同じ受精~着床システムのため女性側の身体の負担が少なく、胎児異常発生率も自然妊娠と確率は同じです。

一方、体外受精は卵子と精子を予め採取して培養液下で混ぜ合わせる方法、顕微授精は細い鍼で精子を一匹吸い取って卵子に直接注入する方法です。受精後、培養した胚(細胞分裂した受精卵)を子宮内に移植して着床させます。

そして、2016年の体外受精で生まれた子供の8割以上は妊娠時期を調整できる受精卵を凍結保存する方法から生まれていました。

そうした生殖補助医療(ART)によって生まれた子供を追跡調査した論文が発表され、「高血圧を発症するリスクが高い」と指摘しています。(メディカルトリビューン2018.9.12)

1978年に世界最初の体外受精児が誕生して以来40年、健康であっても早期から血管老化が見られるとの報告が相次いでいます。マウスでは体外受精によるによる早期の血管老化から高血圧に至ることが示されていますが、ヒトでは不明でした。

そこでスイスの大学病院のDrらの研究グループはARTによって生まれた健康な54人(平均16歳)と年齢及び性を一致させた男女43人を対象に24時間自由行動下血圧測定等々を実施し評価しました。

その結果ARTによって生まれた子供は早期からの血管老化が継続していました。具体的に挙げると血管拡張反応は低下し脈波伝播速度と頸動脈の肥厚度は上昇していました。血圧もART群で高く、130/80以上は1人対8人(p=0.041)でした。

研究グループは5年前に実施した血圧測定で両群間に差がないことを確認しています。つまり、わずか5年で血圧に差が生じたわけですが、「ARTにより生まれた子供に早期から生じる血管老化は、心血管疾患のリスク因子がない明らかな健康な子供においても持続し、それが高血圧に進展するようだ」と結論付けています。

以前から指摘されていたことではありますがやはりこれらの推測(早期の血管老化つまり動脈硬化→高血圧)はおおむね正しいようです。

2018年の西オーストラリアの調査では知的障害のリスク増加(1.58倍)が指摘されていますが、これもまた技術的介入によるものなのか、精子、卵子の質によるものなのかがわからない状態です。

今後、よりARTが普及するでしょうし、更に多くのデータが集まるとともに、より平均年齢の高くなった児のサンプルのデータの集計、長期的な予後の解析が待たれるところです。

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