独身男性は短命なのか~1

日常生活

40歳代、男性、会社員。元々肩凝りがあったのですが一年程前から右手が上がりにくくなりここ2ヶ月でさらに悪化。

受診した整形外科での約10回のリハビリも変化なく仕事にも支障が出だして困っていたところ、行きつけの中華料理屋の店主の中華鍋を振る肩を治療したのが僕だったのが縁で来院しました。

肩関節の屈曲(気を付けの位置~前ならえ~上へ)、外転(気を付けの位置~水平横伸ばし~上へ)が痛くてそれぞれ45度程度しか上がりません。右手を添えると挙上できます。夜間痛もないのでいわゆる五十肩(肩関節周囲炎)とは違うようです。腱板断裂の様な病態です。

確定診断するならMRIですが、通常、棘上筋腱が切れるのは高齢者が多いので再建手術はせず保存療法というのが主流なので、わざわざMRIは撮らない(紹介しない)といった対応が多いようです。

この患者さんは何しろまだ若いうえにスポーツや仕事で肩を酷使した既往も無いだけに生活習慣や既往症に何か引っかかるところはないか探りました。

用意良くお薬手帳を持参(理解し易いので有り難いです)していて、それを見ると少なくともここ2年はスーグラ®、ミカムロ®配合錠、プラバスタチンを服用していました。それで何となく理解できました。

スーグラはSGLT2阻害薬であえて尿中に糖を出して血糖値を下げようという逆転の発想の薬ですが、血糖の管理が上手くできず且つ医師が腎臓(糸球体)の負担を減らし機能を守ろうと考えている、つまり糖尿病性腎症を防ごうとしていることを物語っています。HbA1cは7%台でした。

また高血圧(ミカムロ=ARBのテルミサルタン+Ca拮抗薬のアムロジピン)、高脂血症(プラバスタチン=メバロチン)もあることから将来的には動脈硬化からの様々な疾患が予想されるということです。

糖尿病は腎症、網膜症、末梢神経障害の三大合併症のみならず脳血管障害、顔面神経麻痺、心筋梗塞、すい臓や肝臓のがんから歯周病、水虫まで引き起こす疾患の基礎となっていると考えた方がいいようです。

何しろ通常の倍前後の甘ったるい血液が全身をめぐる訳ですから。

という訳でまず肩廻りの治療をしつつ、炭水化物摂取の制限を提案しましたが、単身者、真面目でおとなしい性格、お酒は睡眠薬代わりにもしくは毎日結構飲むという今まで何人も経験した、というよりありがちな糖尿病が遷延化しやすい患者さん像が浮かんできました。

この患者さんの場合は、肩関節の不調で来院しましたが(たぶん問題ないのでしょうが)仮に棘上筋腱が損傷していてもしていなくても、注力することは生活習慣病三高セット(高血圧、高脂血症、高血糖)を是正すべく生活習慣改善の指導をすることです。

これをせずに前出の投薬のみの対応なので本人は原因を意識しないまま危機感もなく、当然生活を改める動機もなく、悪く言えば薬で表面を隠しているだけの状態(本質的な三高は進行してゆくばかり)だと言えるでしょう。

何故なら原因の中にはこの患者さんの様に糖尿病の親から遺伝した糖尿病を発症しやすい体質もありますが、2型糖尿病は厳しく言えば生活習慣病で、即ち自分に原因がある、逆に言えば本人が治そうと思えば自助努力でかなりコントロールできうる疾患だからです。

幸い、頚肩部、肩甲骨廻りを丁寧に緩めただけで思ったよりも楽になりました。幸いこの患者さんは真面目な人なので肩が挙がらなくなった根本的な道理を理解してもらえれば、あとは生活習慣の地道な修正の継続です。

修行ではなく自分の身体の為なので、生活習慣を変えるのでさえも納得してやることができ、それこそ習慣化さえできればそんなに辛くもありません。

ただ独身男性は自身が健康でいることへのモチベーションの大きな要素である「守るべき家族」が存在しないもしくは離れている場合が多いので、自分を節制する動機付けが乏しい場合が多いのです。

仕事、食事、飲酒、喫煙、房事、生活すべてに“はぐれオス”は好き放題の傾向が表れやすいのです。これが独身男性の治療の大きな障害なのです。

次回はこの症例と対比する形で質素な規則正しい独身生活の60歳代男性のことを書きたいと思います。

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