高齢者の多剤併用問題と鍼灸

江戸川区三療制度という75歳以上の区民が気軽に鍼灸・マッサージを利用できる割引制度があるため多くの後期高齢者の来院があります。

また、高齢による体力低下や歩行困難で出張治療をする場合もあります。

通っていた患者さんが体力が低下し通えなくなって出張治療に移行する場合と、ケアマネジャーや医師、訪問看護師からの依頼がある場合は医師の同意を得て健康保険を適用して週1~2度程度の治療をしています。

患者さんや、在宅ではその家族が介護担当者(ケアマネ)や医療担当者(医師、看護師)に訴えること、それは痛みや辛さをもう少しどうにかできないかということに尽きます。

歳をとって身体が衰えていくのは致し方ないのですが、痛みをはじめとする体のあちこちの不具合を少しでも楽にしてほしいというのは当然だと思います。

しかし高齢者の場合、医師にその話をしても引き出し(選択肢)はほとんど薬物治療一択です。

例えば解りやすいところで「腰下肢痛」の痛み止めですが、患者さんは慢性腰痛のケースが多いのでNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の段階ではないので胃に負担のかかるロキソニンが長期に使われることは少なく、セレコキシブ(セレコックス®)単独や他の薬と合わせて使われることもあります。

痛みの強い下肢症状にはプレガバリン(リリカ®)、ミロガバリン(タリージェ®)が使われるのですがこれでコントロールできない痛みになるとデュロキセチン(サインバルタ®)やトラマドール+アセトアミノフェン(トラムセット®)といった感じでしょうか。

デュロキセチンはSNRIといって抗うつ薬なのですが強い痛みにも抑うつ症状にも脳に作用して楽にする働きという意味で効果があるということです。

しかし、そういう薬効なので「頭がぼーっとするのよ」と副作用を訴えて治療を求めてきた患者さんがいました。強い薬なのでそういうことなのです。

5年前に日帰りのそけいヘルニアの内視鏡手術をした時、全身麻酔から覚めてすぐトラムセットを出され「お、これがトラムセットか、そりゃそうだよな」と思いました。その約一時間後にはもう帰宅のため駅に向かって歩いていました。

足のツレには血行を改善する働きのリマプロストアルファデクス(オパルモン®)を処方されることもありますが個人的には患者さんの反応は良くありません。

それは動脈硬化や血行障害でそういった症状が起きているのではなく、ほとんどが坐骨神経の根症状や脊柱管狭窄症が起因しているからなのだと考えています。

ここでもう一つ引き出しがある漢方を使う医師の場合は芍薬甘草湯や牛車腎気丸、その他「証」に合わせた処方などの選択肢があります。

しかし、これでもやはり長い時間をかけて進行悪化してきた腰下肢痛というのは薬の副作用も含めてなかなかコントロールできず、最終的にその一部の患者さんは「鍼灸で何とかなりませんか」という相談になるのです。

確かにこのレベルの患者さんですから著効というのはそんなに多くありません。しかし、リスクも副作用もなく鍼灸が嫌いなら仕方がありませんが・・・いや、嫌いでも効果はあります。→【鍼は嫌いだが効果あり】(2025.5.24UP)【しょうがないから鍼灸治療】(2021.10.24UP)

もし満足できる効果まで届かないにしても、痛みのレベル、痛み止めの強さ、薬の量を減らすだけでも生活の質は改善します。

その為にも介護者の方、医療者の方ともどもご家族、患者さんにも鍼灸治療を新しい選択肢に加えていただきたいと思うのです。

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