起床時や夜間にベッドから起き上がる時の腰の痛みが強くなり、御主人の紹介で来院して10年近くになる80歳代後半の女性。区民検診の便潜血検査で陽性が出たとのことで、かかりつけ医から総合病院を紹介され初めて大腸内視鏡検査をした時の話です。
検査の結果を聞くと「ポリープがあったんだけど痛くて途中でやめちゃったのよ」とのこと。
あまりに痛がるので医者が「3つあるけどどうしますか?」と聞くので「(そのままで)いいです」と即答し、検査終了となったようでした。
想像するに医者から見ても、悪そうな見た目でもなく、危険な大きさでもなかったというのがあるのでしょうが、それにしても、と。
総合病院に紹介状を持参して検査日を予約して、前日から低残渣食を食べて夜から下剤をたっぷり飲み、さらに当日も下剤ですっからかんにしていざ検査。
で、痛いのを我慢してやっとたどり着いたポリープを目の前に退散って。
それを聞いて思わず「長い参道と石段を登ってやっとたどり着いた神社の賽銭箱の前まで行ってお参りしないで戻ってきちゃった様なもんじゃないですか」と言ってしまいました。
「でもねホント痛くて…」と。確かに施設や患者によっては鎮静剤、腸管拡張のための鎮痙剤を点滴したり局所麻酔ゼリーを使ったりするのですが、そのあたりはどの程度の処置をしていたのかはわかりません。
医者が言うには以前に子宮筋腫の開腹手術の既往歴があるので、それが癒着して痛いんでしょうとの事。
腸そのものには痛覚神経が無いのでポリープを取ったりしても痛いということはありません。痛いのは腸が膨らんだり動いたりするのを感じて脳に伝える神経なのです。下痢の前のあのお腹の痛みを思ってもらえれば理解できると思います。腸が激しく動くのであの差し込むような痛みを感じるのです。
また、何も対処せず内視鏡検査を終えたもう一つの大きな理由に患者さんの年齢もあると思います。80数年使った大腸の粘膜に小さいポリープ、低悪性度腺腫(たぶん)が三つという状態は処置しなくても予後に影響することはないと判断したのだと思われます。
以前、やはり大腸ポリープをポリペクトミーで取った90歳代前半の女性患者さんも「この検査はもういいわ」としみじみ言っていたので理由を聞いたところ「だって死ねなくなっちゃうじゃない」と真顔で答えていました。
その後彼女は100歳で特養ホームに入るということで鍼灸治療を終了しましたがしっかりした女性で息子さん、ヘルパーさんの助けを借りながらも一人暮らしをしていました。
彼女の言う通り最近は卒・検診という流れも出てきています。つまり、高齢化に伴ってコストとリスクをかけてがん検診をしても予後には影響がないということが理解されてきたということです。
この二人のエピソードはそのわかりやすい例だと思います。
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