“最新科学を武器に40キロやせた”『医療記者のダイエット』朽木誠一郎著(角川書店)という本を読みました。この本の中での「ダイエット」とは著者も断っていますが「肥満者が肥満を解消すること」という意味で使われ、書かれています。
この著者ですが肩書が医療記者というよりほとんど医者で、群馬大学医学部医学科卒でドロップアウトして医師免許を持たないというかなり特殊な人です。ここだけでもう既に理解できないのですが。
陸上のインカレ投てき種目で東日本3位という記録があることからそういう筋肉体型の人が仕事のストレスで過食に陥り(往々にして本人はそういう感覚はほとんどなく、やや多めの食事量くらい、に思っています)最高115キロ(175cm)から75キロに戻すまでのレポートです。
のっけからちゃぶ台返しで申し訳ないのですが、読んでいる間、ずっと違和感がありました。太ったことのない人間には解らないと言われるかもしれませんが、やはり40キロ太るには太る理由があります。何しろ40キロも(太る)努力なしには太れないでしょう。
『「人はなぜ太るのか」「人はどうすればやせるのか」これらはダイエットというテーマに向き合う上で最大のテーマです』と著者は書いていますが、いや、それよりもどうして必要以上に食べたくなってしまうのか、食べてしまうのかを考えた方がいいと僕は思うのです。
それは冒頭にも本人が書いています。『成功するダイエットに必要なのは、意志の強弱によらず痩せていくような環境を作ることだ、ということです』 そうです、もっと言えばその前段階での太らない環境作りの方が圧倒的に手間もコストも体への負担もかからないのです。
『健康になるためやせるための環境が整ってない人、その環境を変える余裕のない人に意志の問題を突きつけても逆効果です。近年、医学研究では「健康になるためには環境を変えるべきである」というのが常識になりつつあります。』 このように本人も理解はしているのです。
『医学の勉強をしており「ダイエットしたいなら食事と運動の根本的改善しかない」という事実を知りながら、目を背けたためでもあります。』 国立大学医学部に入学、卒業できる頭のイイ人がわかっていてなぜ。その原因は何かというと・・・。
『ブラック企業に勤務し、ストレス過多や長時間労働、睡眠不足、暴飲暴食で40キロ太ってしまった僕』 これこそ原因そのものです。
220ページ余りの本ですが、ここから筋肉をつければ「やせやすく太りにくくなる」という理論でパーソナルトレーナと管理栄養士のサポートで、筋トレしたり、ウォーキングしたり、ジョギングをしたり、ひと駅歩いたりなどして体重を減らしています。もちろん食事療法も。
ご苦労様なのです。お金をかけてかなり多めに食べ続けて、やせるためにまたお金をかけ、時間と労力を使う。精神的ストレスって怖いものです。そのストレスのための代償行動として食べてしまうのですから。
『入れるガソリンの量(食事)を少なくし使うガソリンの量を多くすれば、体に貯蔵されているエネルギー源、すなわち脂肪が消費されていくことになります。ごく簡単に言うと、食べる量を減らし、動く量を増やすことで、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスを消費の方に傾ける。そのとき、いわばガソリンの予備タンクである内臓脂肪なども一緒に消費されるわけです。』
『このようにメカニズムは明快。なのに僕を含め多くのダイエットはなかなか成功しません。それはなぜかと言えば「肥満者が行動を変えなければいけないから」です』
ではなぜ行動を変えられないのか。やはり著者も書いているように環境と仕事のストレスなのだと思います。肥満者は忍耐強さがなく「時間選好率」が高いという話も出てきます。
有名なのがマシュマロテストですが、この場合、今日飲食したりして得られる満足度を将来健康であることの満足度より高く感じてしまうことを指します。
『ダイエットは結局「食事の節制」と「適度な運動」でしか成功しません。しかし、どちらにも精神的、肉体的なコストがかかります。端的に言えば、食べたいものをガマンすること、体を動かすことは「しんどい」のです。』
こう書いてしまう程、食欲のセンサー、運動意欲を狂わせてしまうのがストレスなのだとも言えます。食事の節制といいますが普通の体型の人から見れば節制せずとも適正な食事ですし、適度な運動にしてもごく普通の生活をしていれば身体を動かしたくなりますし、体を動かす仕事であればそれはそれでいい運動になります。
そもそも「精神的、肉体的なコスト」だなどと考えもしません。普通に生活していれば普通の食欲、普通のBMIになるのです。著者の場合は過食という現象になりましたが、それがメンタルに出たり、婦人科に出たり消化器に出たりとこれはもうあらゆるところに不具合が出てきます。
このようにして「精神的な安定」というのは人間の日常生活の根幹をなす何を差し置いても大切な事なのです。
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