思春期のうつ病と抗うつ薬

医療トピックス

以前、小児と思春期のうつ病に有効な抗うつ薬はほとんどないと英国のグループがランセットに発表したという記事がメディカルトリビューンの記事にありました(2016年9月)。元々薬物療法を行うべきなのかというのにも議論があったのですが。

5260例、14種(SSRIが6種、SNRIが2種、三環系が5種、NaSSA1種、うち4種が日本未承認)の抗うつ薬でランダム化比較試験をして有効性安全性を解析した結果、プラセボと有意な症状改善が認められたのはフルロキセチン(商品名プロザック、日本では未承認)のみという散々な結果。

2016年の日本うつ病学会総会改訂版のうつ病学会治療ガイドラインでは、社会的な要望が高かった「児童思春期のうつ病」という章が追加されました。

その中で6歳以上ではセルトラリン(SSRI、商品名ジェイゾロフト)、12歳以上ではエスシタロプラム(SSRI、商品名レクサプロ)が〝必要に応じて選択される治療〟として認知行動療法、対人関係療法とともに明示されたばかりなのに・・・(この二つも比較試験の14種の中に入っています)。

この例からもわかるとおり、抗うつ薬に関してはその対応がとても難しいことがわかります。特に思春期は薬の不適切な使用によっては自殺のリスクを高めることもあっていろいろと議論がありました。

以前、私の患者さんでもこの中の一つ、アミトリプチン(三環系、商品名トリプタノール)を泌尿器科で夜尿症対策として処方され服用していましたが精神症状に関する副作用で母親が怖くなって中断したという12歳の男の子の例がありました。

最近はボルチオキセチン(商品名トリンテリックス)がよく使われている印象ですが、患者さんの率直な感想は微妙なところです。

「抗うつ薬は本当に効くのか」(アービング・カーシュ著 エクスナレッジ)という本の中で、抗うつ薬の二重盲検の臨床試験では参加者(うつ病患者)は抗うつ薬は自らの経験上、副作用が強いことを十分わかっているので「副作用があるからこれはプラセボじゃない本物だ」と8割の患者が高い確率で見破っていると(それを管理している医師側でも9割がプラセボか否かを当てていた)。だから効果にもかなりのバイアスがかかっているのだと書かれていました。

もっと背景の理解や心理教育や環境調整など基礎的介入や前述の認知行動療法など薬物療法以外に時間とマンパワーがかけられるといいのですが、現状の精神科領域ではなかなか難しいのではないでしょうか。

2016年から看護師による認知行動療法が診療報酬に加わることは心理療法の拡充としては歓迎したいと思います。そして東洋医学、鍼灸治療が思春期の諸症状で悩まれている親御さんにもっと認知され力になればと思っています。

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