2023年に93歳で亡くなった劇団民芸の俳優、奈良岡朋子の「ある女優・奈良岡朋子」という前年製作の10分間の映像をYouTubeで見たことがあります。
同期生で共同代表だった大滝秀治と「私たちは何の才能もないけれど続けられることが才能だと思ってやろう」と二人で約束していたと語っていました。
その言葉どおり二人とも(大滝は87歳で2012年没)亡くなるまで俳優、朗読を続けたわけですが、この二人の生涯を通して貫いた仕事に対するおごることのない謙虚な姿勢に心を打たれます。
彼女を始めて見たのはNHKの『ゼロの焦点』だと記憶していたのでたくさんの出演作リストから検索したところ1971年の作品でした。
確か若妻役が十朱幸代で、奈良岡のあの演技が子供心にとても怖かった印象が残っています。
続けられることが才能だと思って続ける~この二人の約束の言葉が開業からベッド一台で繁盛することもなく、さりとてつぶれることもなく25年間同じ場所で同じ仕事をやってきた自分にとって最大の賛辞、激励だと勝手に思えて心に響いたのです(自己肯定感を持てるというのは生きる上でとても大切なことです)。
私の師匠はよく治療を諦めかけている患者さんに「古い道具だけど」とか「少しこじれちゃったけど磨けば光るからね」と声をかけていました。
当時の鍼灸治療は灸点をつけてあげて自宅でお灸をするというのが標準治療のようなものだったので、いかに家族と協力してお灸を続けられるかというのが予後に大きく関わっていました。
その言葉を信じて患者さんたちは家族にお灸をしてもらいまた何か月かしたら来院してずれた灸点を訂正したり新しく灸点をつけてもらって、小分けしたもぐさを買って帰っていくのです。
治るかどうか、症状が楽になるかどうか保証はできないけれど続けていれば「先に楽しみがあるからね」と言っていました。
「痛み止めの薬ばかり飲んでいても先に楽しみがないからね」とも。
ですから私もこの「磨けば光りますよ」という言葉を患者さんには使わせてもらっています。
「光るのかねえ…」と患者さんには言われますが手をかけず放っておくより少しでも手をかけ、本人も少しでも生活を気に掛けることで多少なりとも「光る」のです。
もちろんこれは厳しいなという症例もありますが、その時はおおよその予測をお伝えしています。
戦争(東京の空襲)で生き残ったのも70年間続けてこられたのも「ただ運が良かっただけ」「運をくださっている何か」
「何かひとつのことを続けられるなら続けられるだけ続けなきゃ」「続けられることが才能だ」
そんな奈良岡朋子の言葉だからこそ心にしみるのだと思います。
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