エビデンスって何さ

医療トピックス

数年前に、整形外科の医師がテレビで「長引く腰痛は実は腰だけが原因ではないことが最近判ってきました」などと言っているのをたまたま見て、何をいまさらと思っていました。

25年以上前、書生時代に雑用中心で比較的時間があったので「医道の日本」という鍼灸専門雑誌のバックナンバーをよく読んでいました。

その中に、症状の出現している人と無症状の人(中年期の男女)の腰椎のMRIを比較しても椎間板の膨隆(バルジング)レベルまでは症状の有無に有意差がなかったという論文が出ていたからです。

25年前に鍼灸師たちが知っていたことを整形の医師が知らなかったというのはどういうことでしょう?これがすべてのことがエビデンスで成り立っている現代医学の盲点だと思います。レントゲン写真で骨棘形成や椎骨間が少し狭くなっていると「だから痛いんです」とか、MRIを撮って「ほらここの神経が細くなってるでしょう」など画像を見ながら説明されることがあります。

でもそれは症状に合わせて画像を診断をしているだけだという事が前述の結果からわかります。MRI通りだと中年~高齢者はかなりの人に痛みや下肢症状がなくてはいけないはずですがそんなことはありません。

これは臨床でも頻繁に遭遇するのですが、初回の質問時に「レントゲンで腰の骨の間が狭いって言われました」という中年以降の患者さんの情報にあまり価値がないことを意味します。

「年相応」「当たり前」といえば解りやすいでしょうか。体重や生活習慣、仕事内容で当然違ってきますが、70代男性の腰椎、60代女性の頚椎のMRIを複数見せられてこの中から坐骨神経痛、頚椎症の症状のある人をピックアップするというのは不可能ということです。

逆に言うと、患者さんが訴える症状はそんなに簡単にわかるものじゃないということです。まして、鍼灸院に来る患者さんは整形外科などの説明(診断)、対応、処置で満足、納得できない患者さんが多いのでそれぞれがかなりの難解な機序で出現していると言えます。

僕たち鍼灸師はMRI画像もレントゲン写真もないので患者さんの話を聞き、椎間部を触り圧痛部を細かく確認し、出現している身体症状と徒手検査で治療方針と予後を提示します。いや、しにくい時も多々あります。患者さんの期待通りではないことも多々あります。

難治疼痛の患者さんでは、時間稼ぎで助けてもらっているトラマドール✛アセトアミノフェン(トラムセット®)や抗うつ薬デュロキセチン(サインバルタ®)などに関してもプラセボとのランダム化比較試験で腰痛が改善することが確認できた事によってそれがエビデンスとなったのでしょう。

これからもしつこい腰痛や神経疼痛に関してそれを痛いと感じる脳に働きかけてブロックする薬が増えてくる(保険適用されてくる)と思います。が、その前に、現代医学でわかっている事よりもわからない事の方が実はずっと多いのだ、この場合の対応は姑息的な解決方法なのだということを臨床医家も患者さんも、もう少し理解していれば、鍼灸院にたどり着いて愚痴る患者さんももっと少なくなると思うのです。

抑うつ状態だから痛いのではありません、痛いから抑うつ状態にもなってしまうのです。その痛みを医師が薬の知識、処方だけで理解、処理しようとするから患者は納得しません。抑うつ状態からもなかなか抜け出せない患者さんも少なからず存在します。

全ての症状を薬だけで解決することは不可能なことです。数多くある診療ガイドラインを見て、「ここに鍼灸治療が入るんだけどなぁ(エビデンスないけど)」と一人寂しく突っ込んでいます。

痛みに関しても薬物治療はもちろんそれはそれで重要です。でもそれだけ、それで放置ではいけないと思っています。他に何も手段がないなら仕方がありませんが。

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