治療のついでという感じで、「股関節が痛いのですが」という訴えを聞くことがあります。
多くは腰椎、坐骨神経由来と推測される臀部痛ですが、何度も訴える患者さんもいます。
大転子付近や鼡径部にも痛みがあれば徒手検査である程度の鑑別が可能ですが臀部や下肢の痺れなどを伴うと腰椎との関連を考えなくてはいけません。
そんな時、私はすぐ「心配だったら整形外科で写真を撮ってもらえばいいですよ」と勧めています。
その理由として股関節は腰椎などと違って神経根などを考慮しなくていいのでX線で見たままに関節の状態(=症状)がわかるからです。
つまり臼蓋の変形や不整があればすぐわかります。関節裂隙の狭小があっても一目瞭然だからです。
もう一つの理由は開業当初の苦い経験の後悔があるからです。
その患者さんはやせ形の83歳女性で年末、12月28日に来院されました。
元々は肩凝りで治療をしていたのですが跛行(足を引きずること)して部屋に入ってきました。
3日前の25日、介護しているご主人の汚れ物の下洗いをしようと風呂場にしゃがんだ後に左鼡径部、大腿外側部に歩行時痛が出現、安静にしていたが変化がないので来院とのこと。
年齢、体型を考えて大腿骨から股関節への押圧を加減していたのだと思います。
可動域も問題なく腰椎か股関節周囲の軽い炎症程度に考えてしまいました。
当然、股関節を疑いましたが、後から考えると仰臥位での徒手検査で年
翌29日(仕事納め)も来院、大分楽になったということですが跛行はありました。圧痛部は大腿外側、大転子の下にあり、腸脛靭帯か大腿筋膜張筋のトラブルも考えました。
年明けの仕事始め(中5日)には「29日当日は良かったが30日からまた戻った」とのこと。年明けの年始回りの立ち話や冷えなどで、室内歩行も辛いとのこと。
左腰、臀部にもかなり敏感な圧痛があり、近所とはいえ杖を使ってやっと歩いて来られるので往療を提案しましたが介護しているご主人に気を使ってそれも辞退。治療後の直後効果もありませんでした。
結局年明けから4日続けて治療しましたが(計6回)変化は見られず、申し訳ないが私の手には負えないと正直に言いました。それでも主人がいるので病院には行きたくないと渋りましたが、自分でも思うように動けないので総合病院の整形の予約を取ったと聞いた7回目が最後になりました。
その後あまり辛いので病院の予約を2日繰り上げてもらい受診。結論から言うと(原発部位はわかりませんが)骨転移でした。その年の8月のお盆の時期に亡くなられました。
股関節は特発的なものやステロイド使用にかかわる疾患を除けば先天的なものか、怪我か肥満(加齢)かといった割合限られた原因によるのですが、鍼灸適応を含めて初期判断の甘さ未熟さを痛感させられた症例です。
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