患者さん宅で治療をしていた時につけたままのテレビから「このチキンは全て生まれて30日以内の鶏を使っているんですよ」「わあ、美味しそう」という若い女性の会話が聞こえてきました。
いわゆる“企業案件”のようなコーナーらしかったのですが、番組とはいえその何も考えていない無邪気さに違和感を感じたのです。
ニワトリの原種はセキショクヤケイ(野鶏)といわれ寿命は5~10年位とみられています。しかし、当然ながらその寿命を全うする鶏はいません。
人工授精で大量に生まれるヒヨコは通常たった50日間の命なのです。
短期間で成長するように品種改変されたブロイラーの正確な寿命を知る者はいません。
食べられる為に生まれてきて、食べられる為に幼いうちに殺されます。鶏に限らず豚も牛も羊も。
皮肉にも地球上の動物で人間以外で最も数の多い上位の動物は全て人間に食べられる為だけに繁栄しているのです。
ニワトリは世界で200億羽が飼育されているといいます。食肉動物の次に数が多いのは人間の愛玩動物、犬と猫です。
これだけ当たり前に大量に動物を繁殖させその肉を食べるという習慣も世界人口の増加とともに拡大しています。
目的は全く違いますが犬や猫は家族同様に愛情を注ぐ動物であり、鶏、牛、豚は食べるための動物。
といった当たり前のようになされる区別にも人間のエゴが感じられてすこしの恐怖さえ感じます。
わが国では犬と猫合わせて年間5万頭が保護され殺処分されていますが、これも元はと言えば人間が経済活動として繁殖させているのです。
昔は番犬代わりでもありましたが、今の日本ではほとんどが愛玩目的です。その一方で殺されるペットを救おうという活動をしている人もいます。
また、馬(サラブレッド)も中央競馬、公営競馬という国や自治体が税金以外の収益を得るためのバクチという経済活動の為に生産され、速く走れない(勝てない)馬は処分されています。
金子みすゞの詩に「大漁」という詩があります。
朝焼け小焼けだ大漁だ 大羽いわしの大漁だ。
浜は祭りのようだけど 海のなかでは何万の
いわしのとむらいするだろう。
「童話」大正十三年三月号(西条八十選)
彼女の小さき生き物への優しい気持ちがよくわかります。
この様にたった50年間で2倍の80億にもなった人間という動物の繁栄(?)は何とも罪作りな犠牲の上にも成り立っているのです。
参考:『 生き物の死にざま』 稲垣栄洋 草思社
『みすゞと雅輔』 松本侑子 新潮社
コメント