「アルコールはダメですか・・・」

医療トピック

急性腰痛に限らず、自律神経失調症による不定愁訴、慢性疲労による倦怠、うつ症状の患者さんなど、症状に限定されず治療後に少し上目遣いでよく聞かれるのがこの質問です。

以前、飲み会で急性膵炎の既往歴のある同業者(鍼灸師)に聞かれた時にはさすがに呆れましたが。知識もあり自分でも解っていてあえて聞くのですから。やっぱり飲みたいのです。そうなっている時点でアルコール依存症であるともいえるのですが。

アルコール(エタノール)は当然ですが極めて有害な毒物です。処方箋なしで手に入る化合物の中でエタノールほど適量と致死量の差が小さい化合物もありません。程よく酩酊している時の血中濃度は0.1%、死に至る血中濃度はたった0.4%です。

有害なので速やかに分解され、アルコールデ(脱)ヒドロ(=ハイドロ、水素)ゲナーゼ(酵素)でエタノールからアセドアルデヒドとなり、更にアルデヒドデヒドロゲナーゼによって無毒な酢酸→アセチルCoA→運動などでATPの需要増ならクエン酸回路へ、運動不足、血糖の余剰などATPの需要減では脂肪酸合成(中性脂肪)~肥満へと進みます。

付き合いの多いサラリーマンのように飲み慣れるとある程度「酒に強くなる」現象がありますが、これはアルデヒドデヒドロゲナーゼだけの働きではなくシトクロムP450と言うエタノールをアセドアルデヒドにするもう一つの反応です。

シトクロムP450はエタノールを毒と認識して生じる酵素なので酒をあまり飲まないと通常は多く存在していません。しかし頻繁にエタノールが体内に入ってくる状況が続くとシトクロムP450の量が多くなりエタノール分解の活性が高くなってゆきます。

厚労省的にはアルコールは1日20g以下とされています。WHOの単位では1ドリンク=10gですから2ドリンクということになります。ドリンク(基準飲酒量)とは飲酒量を純アルコール換算する表示法で飲酒量×濃度(%)×0.8で求めます。

5%のビールで500mlならアルコール20gです。悪名高きストロングチューハイ(9%)なら350ml缶でも25gになります。以前は全く飲まないグループより、少量の摂取の方が長寿というデータ(Jカーブ現象=少量の飲酒では却って病気のリスクが下がりその後は従量的にリスクが上がる)もありましたが、意識して飲まないのか、元来飲めないのかという問題もありましたし、男女差も含め個人差がとても大きいので一概には言い切れません。

とはいえ、最近の海外の論文では脳卒中、心疾患、認知機能(海馬萎縮)に関しては少量でも飲まない方がいいという流れになっていました。(メディカルトリビューン2017.7.9他)

ところが日本の論文では、大腸がんのリスクが上がることはわかっていますが、他は総じてやはりJカーブのデータです。心臓も脳血管も適量なら却って寿命は延びるという結果になっています。晩酌派には嬉しいデータです。

つまり、このテーマは答えがあってないようなものです。仕事終わりで飲む生ビール、風呂上がりのチューハイ、美味しいチーズとワイン・・・。下戸以外の方はほろ酔いのあの幸福感無くしてこの厳しい(?)日常を過ごすことは考えられないと。

医学的に微妙すぎるデメリットのデータはありますが、体感できるメリットがあまりに圧倒的に魅力的すぎるのです。

タイトルの質問に戻りますが、そういう訳で僕は余程の量や依存症か症状が重症でない場合は「少しぐらいならいいんじゃないですか」という曖昧な言い方をしています。あとは本人が決めることということです。

参考:「代謝がわかれば身体がわかる」大平万里著、光文社新書

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