本を読むと最後に「協力してくれた家族に捧げる」というような一行であとがきを閉めて終わるというのがよくあります。
編集者やスタッフへの感謝、その中でも本の製作には関わっていなくてもやはり家族というのは大きな心の支えなのです。
私が今までで最も印象に残っている最後の一行は1989年に出された児童青年精神医学が専門の小児科医師、野本文幸先生の『お父さん子育てしてますか』(朝日新聞社)という本です。
精神科の医師から見ると子供のこころと身体は社会状況はもちろん、家庭、学校、子供に向かう親の在り方が大きくかかわります。この本は、特に心の病気の子供にとって父親の存在は重要であるという観点から父親に焦点を当てて書かれています。
その理由として
・母親より理屈で子供を見ることができる
・母親より距離を置いて子供を見ることができる
・父親こそが社会の視点から子供を見ることができる
と挙げています。
以前、思春期の男の子の子育てに悩むシングルマザーが治療に来ていましたが、よく「どう接していいかわからない」という訴えを聞いていました。本来の来院理由であるはずの酷使して痛めた肩と肘の治療よりも、そちらの方のケアに気を使った記憶があります。
もう30年以上も前の本で著者も30歳代半ばでこの本を書いています。当然データは少し古いですし、夫婦の生活環境も労働環境も変化しましたが書かれている内容は全く色褪せていません。
現在はイクメンなどという気持ち悪い造語などで子育ても仕事もやっているのがいい父親的なイメージで語られがちですが、共働きなど昔からごく当たり前に存在しました。
スーツにおんぶ紐のイメージです(エルゴの抱っこ紐なんてオシャレなもんじゃなくて)。
今も昔もお父さんもお母さんも皆、家族のために子供のために必死で生きていたのです。
子育ての苦労は、あっても苦労、無くても苦労なのです。どこの家庭にも少なからず問題はあり、その中で親の方も親として成長していくのでしょう。
子育てのモットーは「下手が却って上手」が良いと書いています。長い目で見れば上手な人が簡単に終わらせてしまうことを、下手な人は下手な故にいろいろ工夫を凝らして一生懸命、着実に積み重ねていくうちに徐々に腕が磨かれていつしか上手になるということです。
そんな示唆に富んだ本書は最後の「あとがき」で世の父親にエールを送り、家族と親友に感謝を述べた後で
一九八九年秋、兄思いであった亡き長女明美に捧ぐ
という一行で終わっています。
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