『くもをさがす』~生きるっていうこと

晴耕雨読

前回、長時間(7時間以上)の座位と乳がんの罹患との関連が示唆される国内の研究論文を紹介しましたが、それを読んだ患者さんと乳がんの話になりました。

彼女は看護師で長時間の座位とは全く相反する生活習慣なのですが、以前に乳がんを経験し、「くもをさがす」西加奈子箸 も読んでいました。

彼女は「両乳房と3つのリンパ節切除で日帰り手術」というのに驚いていましたが、そこで言うと私は、術後すぐに両脇からのドレーンをまとめてぶら下げた様が信楽焼の狸の〇玉みたいだと自らに突っ込む筆者の関西人キャラに感心してしまいました。

バンクバーの医師も看護師も皆関西弁で(表現されていて)明るく、小気味いい。

やはりリンパ節の郭清を経験している看護師も登場するのですが、彼女もまたカッコいいのです。

リンパ浮腫で1.5倍ほどの片手を見せて「でも、感覚もあるし、全然問題ないで!見てみ、うち看護師やで?注射とかも打てるんやからこれで!」とそんな展開なのです。

別の看護師も「(乳がんのタイプが厄介な)トリプルネガティブかいな、ほな早よ直さんとな」という感じなのです。

患者さんも医療者側も同じサイドというあっけらかんとした感じが新鮮でいい違和感なのです。

もちろん、COVID-19流行の中、異国での4か月の抗がん剤治療やコロナ感染などで「どうして私が」「もう許してください」など正直な心の叫びもあります。

しかし、根底に流れるのは著者はもちろん多くの登場人物の生きることへのひたすら前向きなエネルギーなのです。

そして愛(と表現すると誤解されそうなのですが)。

『一度、ある画材屋で、次の抗がん剤治療の時間について、看護師と電話で話していたことがあった。電話を切ると、レジにいた男性が、

「ごめんね、聞こえちゃったんだけど、あなたは今抗がん剤治療をしているの?」と聞いてきた。そうやで、と返すと、

「あなたはとても勇敢だね。」

そう言って、買おうとしていたスケッチブックとペンを無料にしてくれた。それがとても嬉しかったと、一度看護師のクリスティに話した(ショッキングピンクのコンバースが素敵な看護師だ)。

彼女は言った。

「良かったな!でも、ある意味当たり前やん。カナコは今誰よりも勇敢に戦ってるヒーローなんやから。」

それから、「もっと高いものを選んでたらよかったのに」、そう言って笑いあった。』

「終わりに」という巻末のたった2ページに著者の感謝が詰まっています。修羅場を乗り越えてきたから彼女だからこその医療関係者、友人、家族への当たり前のようでもある感謝が沁みました。

御存じのように著者に限らずこれで終わりという訳では勿論なくて、この後も検査、追加の手術、後遺症などが引き続きあります(そのあたりの素直な気持ちにもページを割いています)。

しかし、この本に登場するたくさんのがんサバイバーの様にポジティヴに生きている心意気に心を掴まれるのです。

筆者らがコロナ禍なのにハグしたくなる気持ち、日本人でさらにジジイではありますがとても理解できました。 

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