乗り越えられない試練はない?

晴耕雨読

表題の言葉はしばしば困難に直面している人を励ます時に使われる言葉です。

しかし、それは励ます方の無責任で根拠のない、少しでも安心させるための都合のいい話の持って行き方ではないのかという疑問もあります。

「その人に乗り越えられない試練は与えられないって言われてるからさ・・・」そう言われてしまえば全ての困難、トラブルもその一言で終わりという感じで。

しかし、本人がとても背負いきれないほどの重い荷物を背負わされて頑張り続けてきたうえでのアドバイスがこの言葉だったらどうでしょう。

『2冊の大好きノート』 田村健二著 光文社 という本を読みました。

双子の娘はまだ4歳の32歳でスキルス胃がん、ステージ4Bと診断された女性の話です。

50代半ばの彼女の叔父が診断の3週間後の見舞いの時、病院のエレベータホールで別れ際に言った言葉をその2か月後にすっかり白く細くなった姪の姿を見て深く後悔します。

「みーちゃん大丈夫だよ。神様はその人にしかしょえない荷物は背負わせないっていうからさ。大丈夫」

『彼女のがんが極めて厳しいものであることは診断された段階で自分にもよくわかっていた。少なくとも、頭では。でもきょうまで、みどりの死が避けられないことを心の底から実感はできていなかった。わかっていても、信じない、それを認めようとしない自分がいた。』

『この日みどりさんにかける言葉を見つけることが出来なかった。後悔はみどりさんが亡くなったあとも続くことになった。』

しかし亡くなったあと、日記やメモに使っていたipadに「たーくん(叔父)が言ってた、神様は背負える荷物しか背負わせない」と書かれていました。

実は当時御主人もみどりさんからこの言葉のことは聞いていたそうで「たーくんからこんな言葉をもらったんだよ」と言って教えてくれたそうなのです。

むしろこの言葉を最後まで支えにしていたかのように御主人は感じていたとも書かれています。

双子の子供たちに笑顔を見せ、二人に2冊の大好きノートを書き上げ、両親に先に逝くことを謝り旅立ちました。

決して背負えるはずのない荷物を一人で最期まで背負いきってしまったのかもしれません。

不調を感じてたった5カ月、診断されてからもたった3カ月と少しでしたが、本当に弱音を吐かず、ほとんど涙も見せず子供に笑顔で接し32年の人生を駆け抜けたみどりさん。

その想いを受けた二人の娘さんが、心の中のお母さんに守られて健やかに素敵で優しい大人に成長することを願ってやみません。

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