精神的ストレスがない人の不調の原因とは

鍼灸治療

30歳代自営業(2代目)の男性。6月初めの来院。数日前より風邪をひいていて、今朝、体をひねり気味に鼻をかんだ瞬間に背中(右肩甲骨の内縁)が引きつれた様な、肉離れの様な痛みで肩廻りが動かせない状態で来院。

治療室に入ってきた時は、微妙に少し前かがみで側弯気味だったのでてっきり「ギックリ腰」かと思ったら「ギックリ背中」でした。

うつ伏せで身体を見てみると局所はもちろんの事、肩~背中~腰まで何処を触っても硬く、押す度に膝を曲げて過剰なまでに痛がります。このような過緊張な身体の状態ですが「特に(精神的)ストレスはない」とのこと。

普通はいつもここで「実は忙しくて睡眠不足で…」とか仕事での人間関係だったり、会社への不満だったり、つまりそのような身体の状態になるべくしてなったその原因(らしきもの)があって、それを客観的に解決、緩和する方法を患者さんと考えることで鍼灸治療との相乗効果を期待するのですが。

あくまでも精神的なストレスは全くないと言います。しかし、身体は全く正直なもので肉体的な負荷だけではこういう身体(本人の自覚の無い過緊張)の状態にはなり得ません。

「でもこんな季節に風邪を引くんだからエアコンが強すぎたせいもあるかもしれませんが、少なくとも身体は疲れていたんですよ」と言うと返ってきた言葉は「仕事も休日も目一杯やりたい」「休日もじっとしているのが嫌だ」「今日も午前中痛いんだけど横になってるのが勿体なかった」とのこと。

なるほど。名付けて「人生亢進状態症候群」でしょうか。体力に自信のある人、若い人にありがちな、解りやすく人生を高速道路走行に例えるなら追い越し車線をアクセルベタ踏みで行きたい人なのです。

これは60年程前にフリードマンとローゼンマンという二人の心臓病学者によって命名された「A型行動パタン」としても有名です。そもそもこのA型は心筋梗塞などを引き起こしやすい性格として分類されたものです。

やるだけ成果の判り易い自営業だけにモチベーションも高くやり手も多いのです。本人はアドレナリン放出の亢進状態でしょうが、しかしそれでは身体が続きません。

やり手と言えば双極性障害の患者さんのそう状態の時もこのような感じとよく似ていました。めちゃめちゃ切れ者で仕事もできるのですが、その後にはその反動のうつ状態が現れます。

ですからやはり、走行車線に戻ってアクセルを緩める時が必要なのです。時にはPAで休憩を。ウチには低血圧、冷え性、貧血気味、月経痛など走行車線の走行がやっとの馬力の無い(昔のイメージの)軽自動車の女性の方が断然多いのですが、実はこちらの方が無理をしない分事故も少なく長く走れるのです。

すべからく生物はオスの寿命が短いのです。だからこそ速く走れるのかもしれません。速く走るのがオスの宿命なのかもしれません。何れにせよ亢進状態では気持ちが高ぶっているのでストレスも苦痛も感じにくいのですが、身体全体としてみれば負荷がかかっているので却って危険なのです。そして何より本人が気付き難い。

壊れてしまっては元も子もありません。ということでこの患者さんにはもう少しペースを落とすことの重要性、これを機に長く続く人生(高速道路走行)のシフトダウンを何点か提案しました。良くなったらまたアクセル全開したくなるかもしれませんが、この経験が頭の片隅にあるだけでもそれはそれでいいのです。

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