街の不動産会社の依頼で荷物を片づけたりする仕事をしている60歳代男性。
エレベータのない4階の荷物の運搬作業中に膝の痛みが発症しました。次第に痛みが強くなり夜間痛(安静時痛)も出始めました。
責任を感じたその物件の大家さんで過酷な仕事の依頼主でもある、当院の患者さんに連れられて来院しました。
痛いながらも歩行は可能なのにいい大人が何故わざわざ同伴で連れて来たのかというと、とにかく人に触られるのが嫌いな人でした。
しかも、敏感肌で湿布の類も一切ダメ、子供の頃から一人だけ植物にもよくカブレていたとのこと。
床屋でも肩を揉まれるのが嫌で断っているとのことです。
東洋医学ではこういう体質を「拒按」と言ってマッサージなど触られることが好きな「喜按」と区別しています。
当然、拒按の人は触られることや体への刺激が不快だったり、くすぐったかったりして嫌なので治療院に来ることはまず滅多にありません。
しかし、痛くては背に腹は代えられないのです。
1か月前に行った整形外科ではレントゲンで「年相応」と言われ痛み止めが出されていましたが変わらず1か月が経過していました。
結論をいうと、こういったタイプの人は刺激に敏感で、また反応も早いので通常の患者さんよりかなり少ない刺激でも著効を示すことも多いと考えます。
右の膝だったのですが、鍼をしている間もとても落ち着かない様子で右手を腿の上で小刻みに動かしていました。
ですからこちらも極力、浅い刺入でツボの数も最低限に抑えました。
お灸も糸状灸と言ってほとんど木綿糸を燃やすような細い、低刺激のお灸をしました。
しかし、効果はありました。
脳では刺激が嫌いなので今まで全く治療をしてきませんでしたが身体(右膝)は喜んでいたのかもしれません。
鍼嫌いあるあるですが初めて鍼を見たそうで「こんなに細いの?」と。
今後の対策さえ留意すれば患部(膝の軟部組織)の損傷具合にもよりますが、予後は悪くないと思いました。
ただ物を持って階段を上り下りする現在のような業務は早晩続かなくなる可能性が高いので考えた方がいいとアドバイスしました。
不動産物件の片付け仕事だったらサポータをきつめに巻いて平場(ワンフロア)のみ、段差があるときは物を持たない、階段は手すりを使うなど極力注意するように伝えました。
とにかく痛みを誘発しないようにすることがとても大切なのです。「痛み」というのはその人の体の小さな“破壊”を持ち主のみに教えてくれているのですから。
仕事のできる範囲が狭くなるかもしれませんが、そのアドバイスがもう二度とここへ来たくないと願っている患者さんのために、そして将来のQOL(生活の質)の維持に役立つであろうと思ったからです。
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