『脳が壊れた』鈴木大介著(新潮新書)という5年前に出た本があります。41歳で脳梗塞になってしまった話です。
脳梗塞(もしくは高次脳機能障害)になってしまった方、家族はもちろん読まれる方が多いと思いますがPT,OT,ST及びそれを目指す人も是非読むべきだと思います。右ばかり凝視してしまう「右メンチ病」、左を見られない感じを「左前方に妻の母が全裸で座っている感覚」など出現する症状を患者目線で的確に説明してくれるので理解しやすいのです。
不登校児童、虐待、ネグレクト環境下で発達の遅れてしまった子供やいじめ被害者のリスクとしての発達障害や発達のアンバランスを持った子供を助ける教育関係者、リハビリスタッフにも示唆がある本です。
挙動不審な態度や少しのストレスからパニック状態になるのも、自分がそうなって初めて著者のそれまでの取材対象(落ち着きが無い、自堕落、短絡的で自己責任と思われている若年生活困窮者)に実は「見えない障害」が隠れていることが多いと気づかされます。(『不寛容の本質』西田亮介著 経済界新書 にも同様の指摘があります)
また本書のもう一つの柱(こっちがメイン)として、「寛容とはこういう事」と再認識できた読後感でした。「生活習慣病は性格習慣病だ」と書いていますが、この表現が秀逸です。まさにそこ。しょうもないことで怒っている人にもお勧めしたい。それは自分自身に原因があるのですよと。
昔に読んだ関牧翁老師の話で、「近ごろは何かあってもやれ政治が悪い、警察が悪い、などと何でも人のせいにしてしまう。全部自分のせいだと思いなさい。そうすれば腹も立たない」というのを思い出しました。
「寛容」ということに関連しますが、この本のキモは「気付き」すなわち 『原因は僕自身だった』 から 『性格と身体を変えることにした』 と気付くことが出来たことです。奥さんの脳腫瘍は本人には原因がない不可抗力ですが著者の41歳でのアテローム血栓性脳梗塞に対し非常に客観的な分析をして的確にそして徹底して対策をしています。これも、これだけ重大なイベントでもなければ出来なかったことかもしれません。
僕の患者さんの中にも49歳時に職場でくも膜下出血を発症して意識不明、その後の失明状態から開頭手術を経て後遺症なく戻った人がいますがそれから健康に気を使い92歳の今も元気な人がいます。生死にかかわるイベントは否応なく「大切なものは何か」をはっきり提示してくれるのでしょう。
『原因は僕自身だった』 の意味は繰り返しになりますが「生活習慣」ではなくて「性格」によるところも大きいと言えます。「背負い込み体質、妥協下手、マイルール狂、ワーカホリック、吝嗇」(略)「善意の押し付け」。
これこそフリードマンとローゼンマンのタイプA性格(病院の待合室の椅子の傷みが早いというアレです)と分類されますが、よく気が付き几帳面でせっかち故にそれでイライラしてしまうタイプです。
これを冷静に自己分析し「もったいないLD(学習障害)児」「発達障害児の成れの果て」の妻に対しての今までの対応に猛烈な後悔と自己嫌悪と反省をしています。
食事療法(ダイエット)についても当然のように正解が出ています。発症から7ヶ月で13Kg減。炭水化物をカットしていますがそれはより効果的だというだけで、カギは「スポーツではない運動習慣」(この場合は早歩き45~60分)を続けることという事になります。運動中は頑張らないが継続して運動することは頑張る、というのが難しいと言えます。
リストカットから精神科通院2年、脳腫瘍(しかも膠芽腫!)克服の妻と脳梗塞の夫。「圧倒的に優しくなった」と巻末で奥さんも淡々と書いていますが災い転じて福となすとお互いに心から思えていることが何よりです。この二人の絆には僕も心の中で「感情失禁」でありました。
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