人生はノンフィクション~洞窟おじさん

晴耕雨読

患者さんの話を聞いて感動してしまう、心を動かされるのはそこにリアルな人生があるからに他なりません。それぞれ何てことないありふれたフツーの人生ですが一つ一つが人生のリアルなストーリーだからです。

唯一無二のリアルストーリーはどんなよく出来た小説よりも引き込ませる魅力があります。子供の頃、テレビを見ていて「これって本当の話?」といつも親に聞いていたような記憶があります。

ドラマ化(2015年)後に原作『洞窟オジさん』 加村一馬 (小学館文庫)を読んだのも、フィクションでもありえない様なノンフィクションだったからです。そういう意味で引き込まれ、同様に心が痛みました。

昭和21年生まれ、8人兄弟の4男。家は当時の皆が貧しかった生活の中でも特に貧乏で、そのために学校でもいじめられ、極めつけは両親の虐待です。しかも自分ばかり。どれだけ悲しかったことか。

雨の日や雪の夜に朝まで墓石に縛り付けられ放置。よく死ななかったものです。兄弟が傘を差しかけてくれたこともあったそうです。

13歳の夏の終わりに家出をし、2日目に置いてきた唯一の友達だった犬のシロが追い付いてきて、群馬県から一週間寝ずに歩いて栃木県の足尾銅山まで歩き続けます。

それだけ両親から逃げたかったのです。こんな切なくて悲しい話はありません。

その何年か後にシロの死で別れになるのですがそのシーンも胸に迫ります。亡骸と3日間一緒にいて、一緒に暮らした山を抱きかかえて一日歩き、一度埋葬するのですがもう一度掘り返し最後の別れをしてまた埋葬します。

たった13歳から56歳まで、43年間の放浪生活です。戦前戦中の無茶苦茶や、戦後のどさくさが書かれたものを読むと、しようがない事とはいえ心が痛みます。でもこの本はまた別の切なさがあります。

究極の人間不信の洞窟オジさんは最終的にはいい人との出会いがあり現在に至りますが、結局落ち着けるのは今でも山、洞穴なのです。

彼がその時代(昭和30年代前半)、ごく普通に両親に愛されて育っていたら・・・と思います。

のちに両親の墓に連れていかれたそうですが「蹴とばしてやろうかと思った」そうです。あれだけシロには優しくした彼ですが時間がたち、仏さんになってもまだ許せないとてつもなく大きな心の傷になっているのです。

すべての子供が幸せになれるわけではありませんが、それは無理かもしれませんが、一人でも悲しい思いをする子供が少なくなることを思わずにはいられませんでした。

(現在も桐生の障がい者施設でブルーベリー農園に携わり元気に働いておられます)

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