肩と背中の凝りに「(鍼は怖いので)お灸だけがいい」というのでずっとお灸だけで治療をしていましたが、その6年後発症した腰痛にはなかなか効果を出せず、そのうち本人も諦めたのか「じゃあ鍼もやっていいです」と鍼をしてみたら良かったようでそれ以降は食わず嫌いが治って、鍼とお灸をやって更に8年経過の80代女性。
以前もかかりつけ医でも原因のよくわからない微熱が続き、精査の結果肺炎が判明したこともあり、微妙な年齢、体調の患者さんでもありました。
先日、「熱いもの」、「辛いもの」、「アルコール」の飲食で耳の奥が痛くなる(L<R)という症状を訴えられました。発症を尋ねると一年程前からとの事。常識的に考えると咽頭から食道への刺激が引き金になっているためその部位の確認が気になります。
この患者さんは当初まず近所の耳鼻咽喉科に行きそこでノドが少し赤いということでうがい薬を処方され使いましたが改善せず、内科で内視鏡検査をしてもらいましたが問題なしとの事でした。娘さんが医者の為、頭頚部、上咽頭部周辺の腫瘍も心配したようですが勤務先でのMRI検査で否定されました。そこでやっと僕に打ち明けたという経過です。
本人としては引き金が判っていますから当然、その対応が第一選択になります。もともと猫舌でしたがより注意深く熱いものを避け、カレーや唐辛子、わさびが好きでしたが辛い物を避け、ワインが好きでしたが「せっかくのワインが美味しくないけれど」炭酸で割って飲んでいたそうです。
僕はノドと耳と言えば耳管しか思いつかなかったので耳管狭窄症の既往や副鼻腔炎の有無を確認しました。訴えの症状以外それも無いとのことなので耳管狭窄症も否定できるでしょう。
となると、伝家の宝刀「加齢により」、咽頭部が度重なる強めの刺激で感覚神経が過敏に反応することによって近くにある耳の痛みを惹起していると考えることしかできませんでした。
鍼灸治療に限らず仕事をする以上は能書きよりもとにかく結果が全てです。しかし、この症状はきっかけ無しに発症して1年続いているし、とりあえず手っ取り早いところで「これはやはり自分でこれまで通り注意深く飲食に気を付けるしかないのではないでしょうか」と誤魔化しで対応するしかありません。
しかも、この刺激痛を起こす三つはいずれも咽頭がんや食道がんの主な原因として挙げられているものばかりですのでこれを警鐘として今後はノドに優しい食生活を提案しました。無責任ながらも治療では背中の張りや腰痛など優先度の高い愁訴があったため、この症状には直接アプローチはしませんでした。
その次の予約の日、あきらめたように(酒屋が好みに合わせて直接売り込みに来るという)高級ワインを持って来てくれました。その次の来院時にはボジョレーヌーボーを。結果も出さずに差し入れをもらった稀有な例でした。申し訳ない限りです。
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