合法薬物としてのアルコールが身体に与える害や、患者さんを巻き込んで一緒に断酒したエピソードを以前に書きましたが、先日ある本を読んでいて改めてこのことを考えました。
『ツボちゃんの話 夫・坪内祐三』 佐久間文子著 新潮社 坪内祐三は個人的には雑誌で評論やエッセイをいくつか読んだことがありましたがあまり強い印象はありませんでした。
2021年の1月に61歳で急逝してしまったのですが、タイトルどおりその前後の事や思い出を奥さんが書いています。亡くなる当日の事から始まっているのですが、普通に仕事も生活もしていて本当に突然です。
著者も元新聞記者で編集者なのですが、ある意味客観的で彼の人柄が的確によくわかる文章です。一途で真面目といえばザックリすぎですがそんな怒りやすいけど憎めない人物像が見えてきます。
しかし、あまりにお酒を飲みすぎました。お酒では20年前にもヤクザ者に絡まれて大怪我をして2か月間入院をしています。11年前にも脳出血で10日間入院しています。
それで医者嫌いに拍車がかかったと。当然ながら降圧剤も服用していませんでした。亡くなるここ2年は酒量も増えて毎日ボトル三分の二の量を飲んでいたそうです。
医療業界の端くれにいる者としては治療者の目線で読んでしまいます。本人はそれなりに気を付けていたようですがそれはあくまで「本人は」であり、大量飲酒と医者嫌いの二本柱があってはさすがに無理だったと思います。
「ユリイカ」の追悼特集で中沢新一が「ある種の太宰治」という文章を書いているようですがそのあたりの意味を含めてそうなのかもしれません。
『ここ数年けんかをすると、「文ちゃん、あと少しだからがまんして。おれ、もうすぐ死ぬから」と言うようになった。体調が良くないことはそばにいてわかっていたし、自分でもはっきり感じていたようだ。(略)この一年はゆっくりしか歩けなくなっていた。』
そして本の帯にもなっているあとがきの「ぼくが死んだらさびしいよ」。もう少しやさしくして欲しかったのだろうかとも思います。
『亡くなって二か月後に届いた死体検案書では死因は「循環不全で高血圧性心疾患による」と記されていた。』日本国民が新型コロナウィルスで騒ぎ出す二カ月ほど前でしたが、肺炎などはなくインフルエンザB型にかかっていたようです。亡くなった後に出た本では心不全のため急逝となっています。
『まじめな新聞記者だったはずの私が突然、離婚してツボちゃんと暮らしはじめたことは私の周りの人をひどく驚かせ、どうしてなのか、彼のどこが良かったのか当時いろんな人から聞かれた。』と、奥さん(著者)も只者ではありません。
彼の前妻と彼の関係もまたちょっと変わっているのです。前妻と著者との関係も微妙な嫉妬もあり...(前妻からの視線は『たまもの』神藏美子著 ちくま文庫)
39歳の付き合っている女性もいた男と33歳の既婚の女性の出会いから彼女の淡々としてしっとりとした文章が「人間おたく」の人生を同業者としての分析とリスペクト、愛情をもって語られています。
しかし、アルコールが二人の別れをかなり早めたのは間違いありません。
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