月に一回程度来る80歳代の女性患者さんの治療中に「テレビでふくらはぎのマッサージ器の宣伝を見て買おうと思ってたんだけど最後に『○○分以内に電話すると割引になります』とか言うのよ。それって変でしょう?どう思いますか?」と質問されました。
さすが元教師、いいところに気が付いたと思います。高齢者に考える時間を与えずに急がせて(混乱させて)冷静な判断をさせないような仕掛けです。
その治療の後に少し時間があったので二人でデスクトップのPCを見ながらアマゾンで同様の商品が半額近い価格で流れていることを確認しつつ、本人が落胆してしまったので以前にも別の患者さんの為に代理で注文履歴のあるパナソニックのフットマッサージャー(メドマー)の購入を手伝ってあげました。買い物の予算は倍になりましたが、いい物さえ手に入ればお金にはこだわらないのです。
倉本聰との対談で“アフロおばさん”稲垣えみ子も言っていましたが、世の中が豊かになってモノがあふれ高齢者はもはやお金はあるが欲しいものが無くなってしまった。しかし、物欲のないこのターゲットに何か売らなければならない。そこでどうするか。
それが不安をあおる方法です。この年代は余っている物的資本(お金)はあるが人的資本(身体)の衰えとともに将来への不安が強くなってきます。そこでテレビと新聞しか見ない、いわゆる情報弱者の不安をあおって、貯めこんでいるお金を使わせようとするのです。
稲垣えみ子はわざわざDHAの含有量が少ないマグロを山ほど積んで、こんなに食べられないでしょ?だからサプリメントを摂りなさいというCMのトリックを挙げていましたが、他にも様々な手で高齢者をカモにしています。
何しろサメの軟骨が自分の軟骨に、スッポンのコラーゲンが自分の肌に置き換わるという理論ですから。それが正しいなら焼肉屋で牛タンを食べたらあんな舌に、焼き鳥屋で鳥皮を食べたらあんな肌に・・・。そんな馬鹿な。口から入るものは異物としてアミノ酸、単糖、脂肪酸のレベルまで消化、分解されて吸収されるのです。
「家族に迷惑をかけたくない」「身内に迷惑をかけないための素敵なプレゼントがあるとしたらどうしますか」 これは僕に送られてきた民間の保険会社のDMのコピーです。身内に迷惑をかけることを嫌う心理を上手く突いた広告です。
介護状態になったら一時金という保険です。しかも今月末まで(期間限定に弱い)、しかも掛け捨てなので安い(この位ならと思わせる加入障壁の低さ)、僕の場合は月700円とのこと。それで介護2で300万円とのこと。これは真面目な人は加入してしまうかもしれません。
要介護2の身体状態とは、「立ち上がったり歩行などの時、自力では困難と認められ、排泄、入浴、衣類の着脱などで介助が必要」といった状態です。
しかし、ちょっと待て!身内へのプレゼントはそんな保険に入るよりも少しでも長く健康でいることです。生命保険のみならず民間の介護保険まで入らなくても迷惑など掛かりません。
いずれ身体は衰え要介護2の日、動けなくなる日が来るかもしれません。いや来ます。しかし、その時の為に40歳以上は強制的にすでにちゃんとかなりの介護保険料を納めているではないですか。
しかも、詳細を見ると要介護になりそうな70歳で更新があり保険料は6倍以上です、75歳からは明記すらされていませんが更にずっと高い保険料でしょう。そりゃ当然です、私たちの事を考えてくれるボランティアではなく商売なのですから。
保険会社は綿密なデータから自分たちの取り分と加入者への配当分を確保できる保険料を年齢ごとに設定しているのです。宝くじで胴元(総務省)が一番儲っているというのとシステムとしては同じことです。
でもそこが「損することにこそ意義がある(だって得するということは万が一が起こっていることだから)」保険という特殊な商品だからタチが悪いのです。
参考:『愚者が訊く その2 』 倉本聰、林原博光著 双葉社
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