設備点検の仕事をしている50歳代男性。左肩甲骨辺りの重怠さに加えて、最近左腕の上腕の内側から指先へのしびれに近いような違和感が出てきました。
一週間経っても症状が改善しないので以前膝の痛みを治療したことのある当院へ来院しました。
症状を聞いてまず考えるのは頸椎から出ている神経がどこかで滞る頚椎症です。しかし症状が微妙だとなかなか理学的検査でも原因箇所が確定できないことが多いのです。
理学的検査とはある部位に負荷をかけることによって患者さんが訴える症状を誘発増幅させて原因となる部位を特定することです。
発症の原因や原因部位を知ることは治療をするうえで最も大切なことなのです。
この患者さんの場合ですが、訴える症状から頚椎症を疑って数種類の徒手検査(理学検査)をしたのですが陽性兆候がありません。
こういった場合は症状から最も予想される原因の対処と症状の緩和を考えて治療します。この場合は頸椎の椎間と肩甲骨周りを重点的に3回治療しました。
その間に患者さんは整形外科にも通いMRIも撮っていましたがいわゆる微妙な診断でミロガバリン(商品名タリージェ)などを処方されていました。
微妙な診断というのは、簡単に言うとこの位の年齢になると誰でも頸椎や腰椎の神経の画像はそこそこの経年齢的な変化が見られるのです。
それが症状として出るか出ないかは微妙なところであり、画像を見て「ほらここが少し潰れているでしょ、だから・・」というのは後付けの理由とも云えるのです。
その後、一か月半振りに来院しました。てっきり調子が良くなったか、そこまでいかないにしてもそこそこ折り合いがついていたから間が空いたのかと思っていました。
聞いてみると、左腕の調子が相変わらずなので奥さんに相談すると「○○の整骨院がよく人が入っているから行ってみるといいんじゃないか」と言われたとのこと。スマホで検索してみると評価もとても高いのでいいかもしれないと行ってみたそうです。
期待して行ったのですが先ずは料金システムの説明から。あれ?と。通常1回2千いくらのところ月額6800円の3カ月契約(しかも自動更新)をすると何回通っても一回600円で治療を受けられると。??
しかも保険証も出しているのに。おかしいと思いましたが高い評価だからいい治療なのだろうと2万円余り3カ月縛りの契約をしぶしぶしたとのことです。
しかし問診どころか治療もそこそこに、何と今この場でやり方を教えるからスマホで治療院の高評価をしてくれと来たそうです。
さすがにここで気付きました。勧めてくれた奥さんを恨みました。せめてもの抵抗でスマホを持って来ていないと噓を言って断ったそうです。これ以上の被害者を増やさないために。
極めつけは「役所から治療の確認の郵便物が来ても何も書かないでこちらに持ってきてくれ」とのお願い。
これは治療時期、回数、症状などを患者さんが記入して送り返し役所の方で整骨院の請求と突き合わせて請求が正しく行われているか確認するものです。つまり自ら保険の不正請求をしているのだと白状しているようなものです。
突出して高かったのは患者さんの評価ではありませんでした。施術者の患者さんへの思いでも、治療技術などでもなく、経営者の錬金意欲だけだったのです。
この患者さんの奥さんが言っていたように、会社帰りの疲れた人達がマッサージ代わりにそこそこ入っている(のが外から見える)のだからそのクラスタをターゲットに真面目に地道にやればと思うのですが。
この患者さんの治療ですが、その後どういう姿勢で症状が増強するのかをその都度確認していたところ、ある時「肘をつくと痺れが強くなる」と言った時がありました。
そこでやっと胸郭出口症候群の可能性が見えました。以前もそれを疑ってテストはしていたのですが陽性反応は全く出なかったのです。
〈次回に続く〉
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