ランニングは抗うつ薬と同等の効果

医療トピック

「ランニング療法に抗うつ薬と同等の効果」という論文が5月のある一週間で世界中で最もツイート数が多かった論文として紹介されていました。(日経メディカル2023/5/30)

抗うつ薬とランニング療法はどちらも精神症状を改善する有効性は以前から知られるところですが、生理学的メカニズムつまり作用の仕組みとなると全く異なります。

患者の精神症状を改善する有効性はほぼ同様ですがトータルで考えると身体的健康指標に対する効果はランニング療法の方が大きいだろうという仮説(!)を検討するために行われた実験ということです。

参加者はアムステルダム大学医療センター関連施設、メンタルヘルス専門外来クリニックで募集されました。

対象は大うつ病性障害もしくは不安障害と診断された17~70歳の患者です。大うつ病とは簡単に言うとうつの中でも抑うつ症状の強いうつ病のことです。

すでに週一回以上定期的に運動する習慣のある患者、過去2週間以内に抗うつ薬を使用した患者、うつ病や不安障害以外の精神疾患と診断されている患者などが除外されました。

患者は実験開始前と16週間(3か月半)後に採血して検査を行い、また抑うつと不安の重症度を調べる専門の質問票調査も行いました。

応募の240人をスクリーニングして条件を満たした141人を対象にしました。

どちらのグループ、つまり「ランニング」でも「抗うつ薬」でもいいというランダム割り付けに了承したのはたった22人。

というのは、試験には参加したいがランダム割り付けを希望しない患者は本人が受けたい治療法を選択できるというのがこの試験の特徴になっているからです。

結果的に抗うつ薬群36人(平均年齢36.8歳、女性60%)、ランニング群が倍以上の83人(同38.8歳、同53%)になっています。・・気持ちわかります。

抗うつ薬群にはSSRIのエスシタロプラム(商品名レクサプロ)1日10~20mg、効かない場合はセルトラリン(商品名ジェイゾロフト)50~150mg。

ランニング群は指導者立会いの下に、10分アップ~30分ジョギング~5分クールダウンの45分を週2~3回。

最初の4週間は個々の最大心拍数50~70%の強度、残りの12週は70~85%と強度を上げていきました。

16週後まで実験を完了できたものは全体の78%、寛解達成率はランニング43.3%と抗うつ薬44.8%でなんと差が見られませんでした。

抑うつ症状の反応率はランニング30%、抗うつ薬34%で殆ど差は無し。

不安症状の反応率はランニング32%、抗うつ薬47%と少し差がありますが、まあこれでも単純な運動と薬物の比較ですからすごいと思います。

身体症状は体重、ウェスト周囲、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数など優位さが見られ、いずれもランニング群の方が良好な結果となっています。

スイミングやサイクリングでもそうですが運動をするとランナーズハイというほどではありませんが、ある程度の脳内麻薬的作用があり苦しいけどキモチいいのです。

そして精神的効果プラス上記の通り当然身体的にも運動効果もありますから。

散歩だとしても適度の運動は身体にも精神状態にも作用するのです。ですから精神科の医師がとりあえず軽めの散歩を勧めるのも理解できます。

という訳で、抑うつや不安障害に対するこの二種類の治療は「メンタルヘルスへの有効性にはどちらも有効で大きな差は見られなかったが身体的指標ではランニング療法の方が抗うつ薬よりも優れていた」と結論しています。

鍼灸治療の現場でもメンタル系の患者さんは多いのですが身体を動かす気力の無い方や足腰が悪くて運動ができない方は薬物治療の選択になってしまいますが、歩ける方はとにかく薬と併用で散歩や自分が苦にならない運動療法をまず試みてもらうよう指導しています。

“動物”とはよく言ったもので身体を動かすことは基本中の基本なのです。

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